硫化カルボニルは植物の光合成によって取り込まれるが、呼吸で排出されないため一次生産量のトレーサーとして有用である。しかし、森林域において硫化カルボニルは植物に吸収されるだけでなく土壌微生物によっても分解されるため、森林域で減少する硫化カルボニルの濃度を用いて一次生産量を過大評価してしまうことが問題となっていた。そこで、本研究室のグループが世界に先駆けて開発した硫化カルボニルの硫黄同位体組成分析装置を用いて硫黄同位体比の変動から植物と土壌微生物の寄与を区別し、一次生産量の評価を高精度することを目的に研究を行った。 安定同位体組成を用いて植物と土壌微生物の寄与を区別するためには、大気中の硫化カルボニルの硫黄同位体組成の変動だけでなく、植物・土壌微生物が硫化カルボニルを分解する際の同位体分別係数を模擬実験で決定することが必要となる。そこで、昨年度組み上げた硫化カルボニルの捕集装置を実際にフィールドに持ち運び硫化カルボニルの硫黄同位体比を測定した。その結果、国際学会で1件、国内学会で1件発表した。さらに、結果をまとめてAtmos. Meas. Tech.誌に投稿した。しかし、実際に観測を行うと試料量が保存されないことが確認された。そこで、捕集後の硫化カルボニルの安定性の確認を行った。これによって3ヶ月間高圧な条件でも硫化カルボニルの分解されない条件を見つけた。ただし、この実験条件の決定に時間を有したため、一次生産量評価には至らなかった。今後、夏に観測を実施し、一次生産量評価を試みる。
|