研究課題
本研究では、ラマン顕微観察により得られる1細胞ラマンスペクトルから細胞の状態を同定し、オミクスデータを通して分子的に理解することを目標としている。本年度は、機械学習の手法を用い、細胞のラマンスペクトルから非破壊でトランスクリプトーム状態を推定できることを示し、研究成果として発表した。また、マイクロ流体デバイスを使った、生細胞ラマンタイムラプス計測の実現に向けて研究を進めてきた。ラマンスペクトルとオミクスデータの対応においては、分裂酵母と大腸菌株の、異なる培養環境下におけるラマンスペクトルを元に、非線形の回帰法を用いてトランスクリプトーム状態を推定できることを示した。その過程で、本来は高次元である細胞のトランスクリプトーム状態が事実上低次元の空間に束縛されていることを確認し、少数の教師データからトランスクリプトームを高い精度で推定できることを示した。本成果により、生細胞トランスクリプトームの実現可能性が示唆された。マイクロ流体デバイスを使ったラマンタイムラプス計測においては、マイクロ流体デバイスで一般的に使われる高分子ポリマーであるPDMSからのバックグラウンドシグナルを低減すべく、デバイスの改良を行った。結果、分裂酵母において、環境変動を与えた際のラマン空間上での変遷過程や細胞個性の評価に成功した。また、哺乳類細胞用の流体デバイスも作製し、長期計測を行うための準備を進めてきた。
1: 当初の計画以上に進展している
初年次の計画通り、細胞のラマンスペクトルとトランスクリプトームの対応を調べることが出来ただけでなく、来年度以降の計画にあったマイクロ流体デバイスによるタイムラプス計測も実現しつつある。また、国際会議において3報が採択、特許出願も完了しており、十分な成果を得ることができたと考えている。
今後は、哺乳類細胞の、マイクロ流体デバイスによるラマンタイムラプス計測に向けてデバイスの改良を進める予定である。また、トランスクリプトームだけでなく、プロテオームやメタボロームとの対応を調べるための準備も進める予定である。
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