研究課題/領域番号 |
17J09033
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
五井 良直 京都大学, 工学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2017-04-26 – 2019-03-31
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キーワード | 橋梁ヘルスモニタリング / 損傷検知 / ベイズ統計 / 仮説検定 / 長期計測 |
研究実績の概要 |
本研究は橋梁の維持管理のため,交通振動を利用した長期的な構造物ヘルスモニタリング技術の開発を目指している.具体的には,振動計測を通して損傷による振動特性の変動を検知する解析アルゴリズムの提案,および提案手法の実務的な運用指針の作成を主な方策としている.上記目的に基づいた採用初年度の研究活動を通じ,以下に示す進展が得られた. 解析アルゴリズムの開発に関してベイズ統計を利用した機械学習に着目し,橋梁の動的応答を表す回帰モデルにおける各種パラメータの確率分布を導出する方法を示した.また上記の確率分布から橋梁の振動特性に対応するパラメータを抽出し,これらの変動を検出する仮説検定手法を考案した.以上の方法により,既往研究において困難であった不確かさの定量化に基づき,非定常な橋梁の振動から振動特性の統計的変動を効果的に検知することが可能となった.なお,データ処理の簡素化に向けた回帰モデルの再構築についても並行して検討を行っている. 単径間鋼トラス橋および鋼鈑桁橋における現場実験を通じて提案手法の有効性を確認した.鋼トラス橋の現場実験おいては,腐食による引張部材の破断事例を模擬し人工的な損傷を導入した先行研究の実験データを用いた.上記検討について,先行研究における損傷検知手法と比して検知精度の点で改善が見られた.さらに損傷の位置および程度の推定について有効性が示された. 鋼鈑桁橋における現場実験に関しては採用の前年度から連続的な長期計測を行っている.この長期計測において主桁の熱膨張による伸縮が観測され,提案指標を用いて境界条件の変動による振動特性の変化が確認された.上述の長期計測の後,同一の鋼鈑桁橋において新たに主桁上を進展する疲労亀裂を模擬した損傷実験を行った.上記の損傷実験についても鋼トラス橋における実験結果と同様,提案指標により損傷による振動特性の変化が効果的に検知されることが示された.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
採用初年度においては構造物ヘルスモニタリング技術の開発に関連して,損傷による振動特性の変動を検知する解析アルゴリズムの開発,提案手法の効果検証,気温や交通荷重など長期計測における外部因子の変動への対策検討が計画された.特に,実橋梁に損傷を導入する現場実験の計画がなされた. 上述した本研究の実績において,当該計画のうち損傷検知アルゴリズムの開発および検証の各段階が以下のように実現された.第一に開発段階に関して,ベイズ統計を用いた仮説検定手法により損傷の位置および程度の推定を含めた効率的な損傷検知を可能とした.第二に検証段階においては,単径間の鋼トラス橋および鋼鈑桁橋における現場実験の考察から,提案手法が外部因子の変動による影響を考慮した実務上のニーズに耐えうるものであることが確認された.なお,採用初年度新たに行った鋼鈑桁橋における損傷実験については,当初の計画通り適切な事前検討のもと安全面へ十分な配慮を行ったうえで計測がなされた.これらの成果について単径間の鋼トラス橋における検証については既に国内外の学会および学術誌への発表を随時行っており,さらに鋼鈑桁橋における検証についても次年度の公開が決定している. 以上の成果から本研究課題における採用初年度の進展について,提案手法の実践的な応用が期待され,概ね計画当初の目的に適う成果が得られたと考えられる.特に,提案された損傷指示指標が損傷の位置および程度を把握するうえで有用である点が示されたことは研究計画当初の想定を上回る成果である.ただし,初年度の課題として計画されていた気温の変動を伴った観測データから損傷に関連する有意な情報を抽出する方法論については,次年度以降に更なる改善の余地が見込まれる.
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究については,当初の計画通り上述の提案手法の実用的な運用方法に関するガイドラインの作成を目指す.この目標を実現する方策として,長期計測における意思決定基準の提案,解析アルゴリズムの高度化,異常検知のためのGUI(Graphical User Interface)の開発の3点から検討を行い,それぞれについて次のように研究を進める. 長期計測における意思決定基準については昨年度の損傷検知技術の成果に準拠し,気温変動への対応を改善したうえで計測データから逐次的に異常の有無を判別する方法を検討する.なお,提案した仮説検定手法が計画当初の予想を上回る効果を示したため,気温の変動を表現する数学的モデル構築においては当初予定された応用的な機械学習技術の適用は行わず,提案手法の簡易な拡張による統計的処理を検討する.具体的には,気温差のあるデータを提案手法における機械学習の対象とし,外気温の変動を考慮した回帰モデルの構築を行う予定である. 解析アルゴリズムの高度化においては上述の意思決定基準の検討に並行して,採用初年度に得られた知見を拡張した挑戦的な研究に取り組む.特に,事後確率を用いた定量的な異常度評価手法,および部分空間法をベイズ的な推論問題に拡張した構造同定手法の開発を行う.これらの検討を通じ,異常検知に関して更なる検知精度の改善,客観性の確保,計算負荷の低減,および指標の簡素化を目指す. 以上の検討を踏まえ外部因子の非定常性を考慮した異常検知基準を設定したうえで,実務上の制約に即したデータ収集・解析技術およびモニタリング情報の可視化技術について実地での運用を目指した枠組みを提案する.この枠組みの有効性について検討するため,多数の橋梁の健全性を同時に監視するための警報機能,および個々の橋梁に関して健全性の評価を適宜参照する機能を備えたGUIソフトウェアを試験的に開発する予定である.
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