本研究は橋梁の維持管理のため,交通振動を利用した長期的な構造物ヘルスモニタリング技術の開発を目指している.採用第二年度の研究活動においては,以下に示す進展が得られた. 採用初年度において開発された損傷検知に関する理論体系を整理し,各種損傷実験により提案手法の有効性を検討した.単径間鋼トラス橋,多径間鋼トラス橋,単径間単純桁構造の鋼鈑桁橋の3橋の実橋梁における損傷実験ついて,損傷検知および損傷位置推定の有効性が確認された.なお,上記のうち単径間鋼鈑桁橋においては長期的な計測結果を通じた温度変化が振動特性に与える影響について追加検討を行っている. 上の検討を通じて,橋梁の振動現象を把握するために有限要素モデルに最適化の余地があることが分かった.特に,計測された振動特性の変化が橋梁のどのような変状に基づくものであるかを確認するうえで,有限要素モデルは将来的に有効な手段となると考えられた.したがって,本年度は損傷指示指標の開発と並行して,計測された結果を基に実構造物の諸元を有限要素モデル上で再現するデータ同化手法の開発を行った. 当初の研究計画においては,本年度は気温変動への対応を改善したうえで計測データから逐次的に異常の有無を判別する方法を検討する予定であった.上記の目標は長期計測における逐次的なデータ処理過程を提案する点では達成されたが,気温変化への対応についてはさらなる改善の余地が残される.また,本研究の最終的な目的として,実地での運用を目指した枠組みの提案を目指していた.しかしながら,提案手法における理論体系について学術誌への掲載に至らず,上記の目標の達成はなされなかった.一方,橋梁の維持管理の手段としてデータ同化を含めた広範な意思決定基準についての着想に至り,進捗を得た点は当初の計画を上回る成果と考えられる.
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