研究課題/領域番号 |
17J09048
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
加藤 研一 京都大学, 理学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2017-04-26 – 2020-03-31
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キーワード | ポルフィリン / ラジカル / 磁気特性 / トリメチレンメタン / 一重項ジラジカル / フェニレンジアミン |
研究実績の概要 |
トリメチレンメタン(TMM)は最も単純な非ケクレ型ジラジカルであり、スピンがペアを作る傾向に反して三重項を最安定状態に持つ。この特異な電子状態や反応性は古くから注目を集めてきたが、無置換のTMMは非常に反応性が高く極低温状態でのみ安定に存在可能である。本研究では、ポルフィリンの高いラジカル安定化能力を用いることでTMMの大幅な安定化を達成し、その分子の構造と物性を単結晶X線結晶構造解析、紫外可視近赤外吸収スペクトル・電気化学・磁気測定、理論計算によって精査した。この分子は固体状態での保存と溶液状態での数時間程度の取り扱いが可能なほどの安定性を示し、大きな一重項・三重項エネルギーギャップを保持していることが明らかとなった。 また、2つの窒素原子をメタおよびパラの位置関係で精密に埋め込んだポルフィリン二量体の合成と、そのジカチオン種における磁性相互作用についても調査を行なった。得られた二量体の電子吸収スペクトルや酸化還元挙動は、縮環したジアリールアミノ基および分子内のポルフィリン間相互作用による効果を大きく反映したものとなった。また、β位を適切に保護することでシリカゲルによる精製が可能なほどの高い安定性を有するジカチオン種への変換が可能であった。これらの分子内スピン間相互作用を温度可変SQUID磁気測定によって調査したところ、2つの窒素原子の位置関係に応じて強磁性・反強磁性的となること、またパラ体においても明確な開殻性を持つことが判った。通常パラフェニレンジアミンのジカチオン種はESR信号や常磁性を示さない閉殻化合物であり、本研究は、パラフェニレンジアミニウムジカチオンの潜在的な開殻性を引き出す新たな手法として、周辺部へのスピン密度の非局在化が有効であることを示した点で重要である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ポルフィリンを用いたラジカルの安定化に関しては、合成や取扱の困難さにもかかわらずトリメチレンメタンを埋め込んだ三重項ジラジカル種の物性を詳細に調査することができた。安定性と強い強磁性的なスピン間相互作用の両立は、ポルフィリンを用いた安定ラジカルのさらなる発展性を示唆する結果である。 2つの窒素原子をメタおよびパラの位置関係で精密に埋め込んだポルフィリン二量体の合成と、そのジカチオン種の磁性相互作用に関する調査も実施することができた。合成したジカチオン種は、通常は閉殻化合物であるパラフェニレンジアミンのジカチオン種類縁体であるパラ体においても明確な開殻性を示すことが判った。このことは、ポルフィリンを基盤としたラジカルの化学が、ラジカルの安定化のみならずスピン密度の非局在化による分子磁性の制御を可能にすることを示した点で重要な成果であった。
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今後の研究の推進方策 |
本研究ではポルフィリン周辺部に縮環させることでラジカル種となる化合物やラジカル中心を複数持つ分子の合成を達成しており、今後は複数のポルフィリンをらせん状に連結した分子を合成することで長波長領域における強い円偏光二色性など興味深い性質の発現を試みる。また、ポルフィリンを用いたラジカル分子の化学を拡張することで、新たな高スピン化学種を安定な化合物として単離・物性評価することを目指す。 具体的には、ジフェニルアミン縮環ポルフィリンの縮環フェニル基を共有した多量体の合成を行い、複数のポルフィリンをらせん状に連結した分子構造と長波長領域での円偏光二色性の関係について調査する。それらの発光特性についての評価も行う。また、これまでに得られた知見を用いて、空気下でも取り扱える程度にまでポルフィリンによって安定化された三重項カルベンの創出とその基礎物性の評価を目指す。
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