研究課題/領域番号 |
17J09057
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
太田 泉フロランス 東京大学, 人文社会系研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2017-04-26 – 2019-03-31
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キーワード | 聖遺物容器 |
研究実績の概要 |
今年度は、主に中世ヨーロッパの君侯のコレクションにおいて、聖なるものと世俗のものがいかにして扱われ、機能させられていたかを調べるために、まずは文献資料の調査、次いで一次史料の読解・分析、そして現存作例の実験調査を行なった。 2017年5月8日からは、「エコル・ド・プランタン」に参加し、当該時点までの研究成果を発表した。本学会の2017年のテーマは「Imagination(想像)」であり、報告者は「Le pouvoir de l’imagination(想像の力)」のセクションで「Reliquary as a means of imagination; on multiple functions of a French Royal reliquary, the Libretto(想像の手段としての聖遺物容器-フランス王家由来の聖遺物容器《リブレット》の複合的機能について-)」として口頭発表を行った。 また9月からは、スイス、フリブールおよびイタリア、在フィレンツェドイツ美術史研究所に於いて研究滞在を行った。当該地に於いては、多くの研究者との議論を通じて自らの研究を相対化するとともに、豊富な文献資料の収集、および分析が可能であった。また在フィレンツェドイツ美術史研究所においては、それまでの研究成果をA Study on the Libretto, a French Royal Reliquary with Multiple Functionsとして発表し、立案していた複数の仮説を検証し、それぞれの蓋然性を高めるために必要な作業のいくつかを明確にすることが出来た。 帰国後は、作業の継続と並行して、翻訳作業も行なった。マデリィン・キャヴィネス「『ザクセンシュピーゲル』彩飾写本における女性とマイノリティー」として『日本學士院紀要、第七十二卷、特別號』に掲載された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初の研究計画においては、本年度は主に先行研究ついて文献資料の網羅的な把握を目指すこと、関連歴史文書へアクセスし、それを読解した上で分析すること、またこうした文献研究と並行して現存作例の実見調査を推し進め、分析を行い、画像資料の充実をはかり、それらをデータベース化して整理することを目標としていた。これらの目標は、二回に分けて行なった、比較的長期間のヨーロッパでの専門機関における研究滞在の実績として、当初の目論見以上に進捗している状況である。また、同二回の研究滞在中に行うことのできた研究発表では、研究分野を同じくするヨーロッパの研究者らから、予想以上の反応を受けることが出来、研究発表の場のみに留まらない活発な議論を重ねることが出来た。これらの議論によって、それぞれ当該時点までの報告者の研究成果を相対化することが可能であった。得られた成果としては、自身の研究の方向性に対する確信を得たことと共に、いくつかの仮説の脆弱な点が明らかになり、是正されるべき問題、そして今後の課題が更に明確になったことが挙げられる。また、活発な議論を通じてヨーロッパでの研究者との学術的なコネクションを得ることで、今後の研究遂行の見通しがより明確なものとなったことも、当初予期していた以上の成果である。 文献資料の読解および分析、具体的にはフランス王シャルル5世およびシャルル6世、アンジュー公ルイ1世、ベリー公ジャンの財産目録、パリのサント・シャペル、サン=ドニ修道院、ノートル・ダム大聖堂の宝物目録についての作業も当初予定していたよりも進捗し、近く論考としてまとめられる段階にある。 また当初の研究計画には組み込まれていなかった翻訳作業も行うことが出来た。翻訳した論文の著者は、中世美術史研究の大家であり、翻訳という精密さを求められる作業を通じて、当該研究者の方法論に触れられたことは稔り多い経験である。
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今後の研究の推進方策 |
二年目となる本年度は、これまでの研究成果を承けつつ、本研究の中心的な考察対象である聖遺物容器《リブレット》を具体的にパネル型聖遺物容器の歴史的展開の中に位置付ける。さらに用途や機能やその変化などを含め、このタイプの聖遺物容器に拘る包括的な分析を目指し、以下の着眼点に基づいて成果をまとめてゆく計画である。 まず、昨年度から継続して行なってきた当時のパリの金細工工房の実態に関する研究のために、パリにて文献史料調査を行いたい。同時に写本工房との関連の中で、相互の繋がりが認められると報告者が考えているものについて、具体的な例をまとめて精査する。またアルマ・クリスティ図像について、昨年度の成果をもとにルドルフ・ベルリナーによる論文を補完する形で論をまとめ、先ずは口頭発表を行いたい。 次に、ポータビリティを獲得したパネル型の聖遺物容器に関して、これまでに考察してきた個別研究をまとめ、更に現存しない作例を引き続き補ってゆくことで、その用途と機能についての見解を纏める。 また、《リブレット》をパネル型聖遺物容器の歴史的展開の上に位置付けるのみに留まらず、宮廷コレクションにおける金細工作品の聖俗混淆の実態の中で本作がどのように考察されるべきなのかについては、本年度の研究活動の主眼となる。着手してはいたが、昨年度に考察を纏める段階には至っていなかったこの問題に関しては、4月のフィレンツェでの調査滞在で類例の収集に励むと共に、研究者らと議論や意見交換を行うことで、論点をより明確にしてゆきたい。 また6月には、和歌山県で行われる第42回地中海学会大会に於いてシンポジウムで、中世ヨーロッパにおける聖遺物の移動や聖遺物容器のポータビリティに関して、サンティアゴ・デ・コンポステーラへの巡礼と比較する形で発表する予定である。
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