研究課題/領域番号 |
17J09059
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
阿野 大史 東京工業大学, 物質理工学院, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2017-04-26 – 2020-03-31
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キーワード | マイクロ波加熱 / 局所高温場 / エネルギー集中 / 白金ナノ粒子 / 触媒反応 / X線吸収微細構造(XAFS) / ナノ構造設計 / シミュレーション計算 |
研究実績の概要 |
多くのエネルギー消費を伴う化学産業に対し,マイクロ波加熱手法は化学反応の速度上昇や反応系の低温化に伴う大きな省エネルギー化をもたらす.特に,有用な触媒として頻繁に使用される担持金属ナノ粒子の系では,金属ナノ粒子にマイクロ波の電磁場が集中し,反応活性点となる金属ナノ粒子の局所高温化に伴う劇的な反応促進効果を期待した.本研究では,担持白金ナノ粒子の局所加熱効果にかかわる3つの成果を得た.1つ目として,担持白金ナノ粒子を活性点とする2-プロパノールの脱水素反応を行ったところ,通常加熱条件と比較して,マイクロ波加熱下では8倍の反応速度が得られた.2つ目として,白金のX線吸収スペクトルが通常加熱下において温度に依存して変化することを実証し,マイクロ波加熱下において白金が局所的に100度以上高温となったことを示唆するX線吸収スペクトルの劇的な変化を観測した. 3つ目として,担持白金ナノ粒子のマイクロ波発熱因子を明らかにしてきた.現在までに,白金ナノ粒子のサイズ,最適な担持量,担体の金属酸化物がマイクロ波発熱量に対して大きく影響することを実証してきた. 本研究結果は「マイクロ波」×「ナノ材料」の学理を初めて構築するものであり,特にナノ物質の局所高温化は既存の物理理論では説明できない全く新しい現象である.精密構造設計された白金ナノ粒子に対してさらなる実験と詳細な分析を行い,またスーパーコンピュータを駆使した計算的アプローチによる現象理解を行った上で,マイクロ波加熱手法の制御技術化を進める予定である.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究の最終的なゴールは,触媒の活性点へのマイクロ波エネルギー集中に基づく劇的な触媒反応促進の実証である.当初の計画では50度以上の温度差を有する局所的な高温反応場の創出を目指していたが,これに対して白金担持触媒の系においてXAFS分析に基づく100度以上のナノ局所高温場の形成を示唆する結果を得た.本結果については今後も詳細な解析を続けていく予定ではあるが,このX線スペクトルの変化をすべて温度に帰属できるとすれば,化学産業界で広く使われる担持金属触媒の系で50度以上の温度差を有する局所的な高温反応場の創出を達成したと言える.また本系において2-プロパノールのガス流通系における脱水素反応を行ったところ,通常加熱条件に比べて,マイクロ波加熱条件において反応速度が8倍となった.ここで,マイクロ波加熱下における白金の局所高温場に基づく劇的な触媒反応促進の実証を達成できた.さらに,担持金属触媒の反応系に対するマイクロ波加熱手法を制御可能なものとして一般化するため,ナノ粒子のマイクロ波発熱因子を解明するための実験を新たに提案した.白金ナノ粒子のサイズ,最適な担持量,担体の金属酸化物がマイクロ波発熱量に対して大きく影響することを実証できた.これらの結果は担持触媒系におけるマイクロ波利用方針を新たに構築するものであり,本研究が当初の計画以上に進展していることを示す.
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今後の研究の推進方策 |
つくばの高エネルギー加速器研究機構の放射光施設を利用し,マイクロ波加熱下でのXAFS分析を予定している.純粋な温度の影響を議論するために,昇温によって構造の変化が起こらないような担持白金ナノ粒子触媒を合成予定である.当研究室で可能な分析を行った上で,高分解の電子顕微鏡によるナノ粒子観察を東工大の分析部門に依頼予定である.ナノ温度測定手法を確立し白金の局所高温化を実証したときには,これまでの古典物理で説明できないナノメートルスケールでの局所高温化の現象について十分に考察する必要がある.化学系や物理系のみならず,電気系や機械系などの他分野の論文や本を広く読み,積極的に学会やワークショップに参加し議論することを予定している. ナノ粒子のマイクロ波発熱因子を解明するために,白金を担持した金属酸化物の単結晶基板についてマイクロ波加熱実験を行い,その発熱量に対する白金の担持量やジオメトリ,電子状態などの各種パラメータの影響を検証している.その中でも特に,発熱量に対する担体基板の種類の影響についてさらなる詳細な分析が必要と考えている.具体的には,すずかけ台分析部門での高空間分解の走査型プローブ顕微鏡を用いたジオメトリ分析,電子状態分析などを予定している.このとき種々の単結晶基板を検証するためにこれらを新たに購入する必要がある.また,非常に小さなナノ粒子の系を詳細に議論するため,上記の実験的なアプローチ以外にスーパーコンピュータを用いた電磁場・伝熱の連成解析シミュレーションを試みており,本年度も継続して行う予定である.ナノ粒子のジオメトリや電気特性を自在にモデリングし,通常の実験では観測できない電磁場分布や温度分布の可視化が可能となる.実験結果のみならず,異分野横断的な知見と高度なシミュレーション解析結果を活用して,ナノ粒子のマイクロ波発熱現象についてより詳細な議論が可能となる.
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