研究課題/領域番号 |
17J09077
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
金 仁基 東京大学, 工学系研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2017-04-26 – 2019-03-31
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キーワード | フォノニック結晶 / トポロジー / トポロジカル境界状態 / 弾性波 |
研究実績の概要 |
本研究は、強誘電体を利用し単体で渦(vortex)状態生成可能なフォノニック結晶(Phononic Crystal:PnC)を実現することを目指す。また、PnC渦状態による角運動量伝達の物理を明らかにし、マイクロ粒子の音波マニピュレーションへの応用を目指す。当初の目標を目指すためには、2次元PnCを用いて弾性波・音波の渦状態を生成する必要がある。 2次元フォノニック結晶を用いた渦状態の実現に向けて、その第一段階として1次元フォノニック結晶におけるトポロジカルな性質に関する研究に取り組んだ。1次元フォノニック結晶では、2次元フォノニック結晶で生じる渦状態は存在しない。しかし、2次元構造と同様に通常とは異なるトポロジカルな性質より弾性波や音波の局在したトポロジカル境界状態を生成することができる。本研究では、実用性の高い連続体固体構造では初めてとなる弾性波に対するトポロジカル境界状態を実現することに成功した。この成果は、2次元フォノニック結晶中の音波や弾性波のトポロジカルな性質を利用した渦状態生成に展開する上で、重要な知見である。また、この成果を基礎に、すでに二次元系における検討も開始しており、数値計算によりその可能性を明らかにしており、今後の研究の発展が大いに期待できる。なお、本年度の研究成果については、国内学会発表2件、国際学会発表4件など、多くの学会で発表を行なったほか、詳細な内容をまとめた論文が国際論文誌に掲載され、注目論文の一つに選ばれるなど、高く評価されている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初計画した2次元フォノニック結晶を用いた音波や弾性波の渦状態は、周期構造内で音波や弾性波の分散関係におけるトポロジカルな性質と関係がある。分散関係を表わすフォノニックバンド構造のトポロジカルな性質とそれによって実空間に現れる音波や弾性波モードの関係を調べるため、第一段階として一番簡単な系である1次元フォノニック結晶を用い、フォノニックバンドのトポロジカルな性質およびそれによって表れる弾性波のトポロジカル境界状態についての研究を行った。 まず、有限要素法を用い、シリカからなる1次元フォノニック結晶を設計した。フォノニックバンドのトポロジカルな性質が異なる構造を設計するために、構造パラメターを変えながらバンド計算を行った。バンドのトポロジカルな性質が異なる二つの1次元フォノニック結晶を接続させ、その接合境界で現れるトポロジカル局在モードを数値計算から確認した。 また、トポロジカルな性質が異なる各1次元フォノニック結晶に対し、弾性波に対する透過率スペクトルを測り、フォノニックバンドギャップ効果により弾性波の透過率が大幅に下がる周波数領域の存在が確認できた。これらの接合構造に対する透過率スペクトルでは、共通バンドギャップ領域の中で局在されたトポロジカル境界状態の存在が確認できた。 最後にトポロジカル境界状態が接合境界付近で空間的に局在されているかを確認するために、レーザを用いて弾性波モードの空間分布を測定した。弾性波による歪の変化は、光弾性効果を通じて構造内に屈折率分布を与える。その屈折率変化は、特定の偏光状態を持つレーザを入射させ入射光の位相遅延測定することができる。測定結果、接合した1次元フォノニック結晶の境界付近で大きな位相遅延が測定され、トポロジカル境界状態がちゃんと境界付近で局在されていることが確認できた。以上のとおり、活発な研究活動により多くの成果を挙げている。
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今後の研究の推進方策 |
2次元フォノニック結晶を用いた音波の渦状態を実現するために、現在2次元フォノニック結晶の設計に取り組んでいる。当初計画したのは音波を用いた渦状態であったが、液体を用いた渦状態は設計は簡単であるが、速度が遅いため、高速な波の制御には向いてないことがわかった。また、2次元フォノニック結晶を用いた音波の渦状態およびその角運動量に関する研究は、既にいくつかの研究グループでその成果を出しておりその報告が続いている。そのため、本研究では渦状態の高速制御を実現することを目指し、流体などを伝搬する音波ではなく固体を伝搬する弾性波を用いた2次元フォノニック結晶の渦状態の実現に向けて研究を進む予定である。 縦波のみが存在する音波とは違って、弾性波の場合、横波も存在するため、構造の設計が簡単ではない。2次元フォノニック結晶を用い、複数の渦状態を生成するために、本研究ではバレー状態と呼ばれる、特定の向きに回転運動を行う弾性波モードを用いる。安定な渦状態を作るためには、他の弾性波モードが邪魔しないように完全フォノニックバンドギャップを持つ構造が必要である。そのような2次元フォノニック結晶を有限要素法より設計し、所属研究室で持っている半導体プロセス技術を活用してサンプルの作製を行う予定である。
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