研究課題/領域番号 |
17J09081
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
白井 史人 京都大学, 人間・環境学研究科, 特別研究員(PD)
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研究期間 (年度) |
2017-04-26 – 2020-03-31
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キーワード | 映画の音楽 / 日本映画 / 無声映画伴奏 / トーキー / 洋楽導入 / 近代化 / 映像音響 / 表象文化論 |
研究実績の概要 |
初年度にあたる平成29年度は、東京を拠点として内外における資料調査を進め、受入研究者である木下准教授が主催する京都大学映画コロキアムへの参加を軸に、資料の収集、分析および成果発表を行った。 国内では、横浜開港資料館所蔵の無声映画期の興行資料の調査(4月~5月)、早稲田大学演劇博物館所蔵の無声映画伴奏譜の調査を行い(4月~12月)、明治学院近代音楽館所蔵にてトーキー初期に活動した作曲家の関連資料調査を実施した(6~10月)。早稲田大学演劇博物館所蔵の伴奏譜「ヒラノ・コレクション」の調査・分析の成果は、英語圏における映像音楽研究の専門的国際学会での口頭発表(5月27日)、京都大学映画コロキアムでの口頭発表(7月18日)、および『演劇研究』第41号の論文(査読あり)としてその一部を刊行した。また明治学院近代音楽館所蔵の作曲家関連資料のうち、日本における西洋音楽導入を主導した山田耕筰に関して、山田が音楽を担当した映画作品のうち、楽譜が現存する手稿譜(8作品)の基礎的調査を実施し、その成果を日本音楽学会全国大会にて口頭発表した(10月28日)。 在外資料館では、2017年5月24日~6月3日のアメリカ出張で、コロンビア大所蔵の日本映画関連資料「マキノ・コレクション」と、議会図書館の無声映画伴奏譜コレクションの調査を行った。また10月2~12日にかけてヨーロッパ出張を行い、イタリアのポルデノーネ無声映画祭で各国の無声映画復元や上映に従事する研究者、アーキビストおよび演奏家と交流する機会を得た。また定期的に京都大学コロキアムに参加し、上記の過程で収集した資料を、音楽学的分析手法と映画研究の双方の枠組みから検討するための意見交換を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
東京を拠点とした資料調査・分析の基盤となる環境を整備して内外での資料調査を進めると同時に、関西圏におけるさらなる資料調査や研究ネットワークの形成の足掛かりを得ることができた。 横浜開港資料館では当館が所蔵する横浜のオデオン座の興行資料を収集したほか、関連資料の提供や調査に関する助言を受けた。早稲田大学演劇博物館所蔵の無声映画伴奏譜「ヒラノ・コレクション」に関しては、基礎的な調査を完了し、国際学会Music & the Moving Imageにてその成果の一部を発表することができた。明治学院近代音楽館では、山田耕筰の現存する手稿譜の基礎的調査の大部分を完了し、伊藤昇や早坂文雄に関連する資料へとその調査対象を広げた。 在外資料館に関しては、膨大な日本映画文献資料を含むコロンビア大「マキノ・コレクション」にてトーキー初期のPCL製作所の関連資料を収集したほか、議会図書館の無声映画伴奏譜コレクションのうち、日本における洋画上映と関りの深い無声映画伴奏譜資料を収集した。 このように収集した調査の分析を進めるため、京都大学で開催されている京都大学映画コロキアムへ定期的に参加した。当コロキアムでの研究発表「『軍神橘中佐』(1926年、日活)の間メディア性」では、映像分析に関する具体的助言や同時代のコンテクストにおける位置づけなど様々な観点において、受入研究者および国内外からのコロキアム参加者と有意義な意見交換を行うことができた。このほか大阪の池田文庫における楽譜資料調査や、京都大学、京都市立芸術大学、神戸大学、国際日本文化研究センターなどに所属する研究者との意見交換を進めた。 当初想定していた資料収集は順調に進展し、初年度として一定の成果を上げることができた。その一方で、内外の研究者との意見交換の結果、さらに関連が深い資料に関する助言を踏まえ調査・分析の枠組みを拡大する必要が生じた。
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今後の研究の推進方策 |
平成30年度以降は、東京を拠点として内外における資料調査を進め、京都大学映画コロキアムへの参加を継続しながら研究ネットワークを拡大し、個別の資料館における調査成果を組み合わせた成果発表を内外で進めることが課題となる。 初年度に、国内の主要学会における口頭発表として一定の成果が上がったトーキー初期の作曲家を対象とした調査結果を、2018年5月にニューヨークで開催される国際学会Music & the Moving Imageで発表し、英語圏へと成果発表の枠組みを広げる。更なる意見交換を行うとともに、英語論集への投稿も予定している。 また初年度の調査の結果、議会図書館に所蔵されている当研究計画に関連する無声映画伴奏譜のうち、本研究に関連する資料が想定以上に膨大であることが判明した。同学会で意見交換をすることができた専門家とのコンタクトを維持しながら、今後も重点的に調査を進める必要があると考えている。なお当初は初年度に予定していたドイツでの本格的な調査は、2018年夏季に実施する予定である。 成果発表における課題は、各地での資料調査を継続するとともに、個別の資料館で収集調査した資料を横断的に分析することである。一例を挙げれば、横浜での映画興行の実態を示す横浜開港資料館所蔵の映画館週報の体系的調査と、ワシントンの議会図書館などに所蔵されているアメリカの無声映画伴奏譜の分析を組み合わせ、無声映画伴奏の輸入譜が流通するプロセスを内外のネットワークのなかで明らかにすることなどが具体的な課題となろう。またそうした無声映画期の活動の同時代の広がりにおける資料分析と併せて、トーキー初期の音楽に関する調査・分析を進めることで、無声映画期の実践が、トーキー初期にかけての作曲家の試みにおいていかに吸収もしくは批判されたのかを通時的に解明することを目指す。
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