研究課題/領域番号 |
17J09112
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
村上 泰斗 京都大学, 工学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2017-04-26 – 2019-03-31
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キーワード | 固体化学 / 結晶構造 / 磁性 / ニクタイド / 金属秩序 / 秩序無秩序転移 / ヒ化ニッケル構造 |
研究実績の概要 |
本研究は、新規低次元ニクタイドの合成を行い、次元性と物性の相関を明らかにすることを目的としている。研究者は、申請書に基づき金属秩序NiAs型構造を持つ新規物質HfMnSb2のHfサイトにTiを置換した固溶系Hf1-xTixMnSb2の合成に成功した。得られた試料への放射光X線回折測定の結果、x = 0.15までは金属秩序NiAs型構造が保たれ、xが0.4以上では金属が完全に無秩序化することが明らかになった。磁化測定より、コニカル磁気秩序は金属秩序のある領域でのみ観測され、金属無秩序構造を示す領域では強磁性が観測された。このことから、本物質系は金属の秩序状態が磁気構造と密接な関係にあることを示した。HfMnSb2に対しては偏極中性子回折測定を行い、逐次相転移(270 Kで常磁性・強磁性転移、230 Kでコニカル磁性への転移)を起こすことを示唆した。また、金属秩序NiAs型構造をHfMnSb2以外の組成に拡張することを目的として新物質の探索を行った結果、三種類の新規ニクタイドの合成に成功した。構造解析の結果、得られた物質はNiAs層とNaCl層が交互に積層した構造を示していることが分かった。さらに、この構造には金属サイトが2種類あり、金属秩序が実現している。NiAs型構造、NaCl構造を持つ物質はともに膨大な数が知られているが、この二種類の構造が積層した構造を持つ物質はほとんど知られていない。また、金属秩序がNaCl型とNiAs型の積層構造で起こったのは本系が初めてである。磁化測定より、これら三種類の物質はいずれも強磁性を示すことが明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
申請書に示した項目のうち、(1)「固溶系 Hf1-xTixMnSb2の合成と磁性の制御」については、現在にまでに実験がすべて完了し、HfMnSb2の磁気構造が金属の秩序状態と密接に結びついていることを示した。この成果は、Journal of Solid State Chemistry誌に掲載された。 (2) 「層状秩序 NiAs 型構造を持つ新規物質の開発」についても、合成手法を駆使して新規物質の合成を試みた結果、新たに三種類の物質の合成に成功している。これらの物質はNiAs層とNaCl層が交互に積層した構造を有し、金属秩序が実現している。このような構造はニクタイドとしては初めての例である。また、磁気転移温度はHfMnSb2のものの半分以下になっており、磁気物性に関して顕著な次元性の低下が確認された。 (3)「Metal-Sb 正方格子を持つ二次元ニクタイドの開発」については、新たに10種類の新規物質の合成に成功している。またその過程で、一部の物質では遷移金属が Sb に平面四配位された状態を保ったまま、層の積層の位相のみが無秩序化しているという新現象を発見した。また、この無秩序化の度合いにより、磁気物性に顕著な変化をもたらすことを明らかにした。 以上のように、申請書に挙げた項目それぞれについて顕著な研究の進展が見られており、今後の進展が期待される。
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今後の研究の推進方策 |
NiAs 型、NaCl 構造はともに無機固体化学で基本的な構造であることから膨大な数の物質、研究報告があるが、ニクタイドにおいて金属秩序が実現した例はほとんどない。NiAs 型構造における金属秩序は申請者が報告した例に限られており、NaCl 型構造に至っては皆無である。また、両構造が交互に積層した構造は無機固体全体を見渡しても非常に数が限られており、その中で金属秩序が実現した物質は申請者が合成に成功した物質が初の例である。以上の物質における金属秩序の起源は、物質例が少ないこともありまだよく分かっていないのが現状である。研究者は今後、金属秩序の起源に対する知見を得るため、申請者の得た新物質に対し合成条件(温度、圧力)を変化させることによる秩序度の変化を調べる。また、外部圧力を印加することで秩序・無秩序転移や構造転移が起こす。外圧による構造転移の例として、六方晶ペロブスカイトにおける立方晶への転移が知られており、本系においても金属秩序 NiAs 型構造から NiAs 型・NaCl 型積層構造、NaCl 型構造への転移が予想される。また、第一原理計算を行うことで、得られた構造の安定性を調べ、比較検討する。以上より得られた知見に基づき、NaCl 層と NiAs 層の積層パターン、金属秩序状態の異なる構造の合成を試みる。特に、磁性層間の距離を変化させることで構造の次元性を自在に制御し、新奇な物性を創出することを目指す。
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