研究課題/領域番号 |
17J09152
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
恩河 大 東京大学, 工学系研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2017-04-26 – 2020-03-31
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キーワード | 2次元物質 / 光物性 / 励起子 / ホール効果 / バレートロニクス / バレー自由度 |
研究実績の概要 |
2次元物質の光物性を研究する本研究を実行するため、まず偏光分解顕微分光系を構築した。これにより円偏光に対して特異的な応答を示す本系の物性を、高い精度でかつ簡便に測定することが可能となった。 構築した系において2次元物質の一種である遷移金属ダイカルコゲナイド単層の発光マッピング測定を行い、その光とバレーの結合した状態(バレー励起子)がマイクロメートルスケールで拡散する様子を捉えることに成功した。またその拡散輸送された粒子がそのバレー指数に応じて自発的に左右に分離される現象を観測した。これは励起子ホール効果と呼ぶべき新現象であり、これらの研究により光とバレーが結合した状態を選択的に輸送・分離できることが実験的に実証された。 更にスピン自由度との結合を目指し、層状構造をもつ磁性体の研究にも取り組んだ。弊グループや共同研究グループが合成した磁性体に関し基礎的な光学的・電気的な測定を行い、その物性を明らかにした。これは次年度以降のスピン自由度を取り込んだ複合機能デバイスの作製への第一歩であると考えられる。 ナノ物質を用いた実際の光電気デバイスとして、層状構造と疑一次元構造を併せ持った遷移金属ダイカルコゲナイドナノチューブの発光・受光デバイスを作成し評価した。その結果、構造に起因した特異な偏光特性と高い変換効率をを明らかにした。これは層状の2次元物質が、その構造を変えることで従来以上のデバイス特性を示す可能性を示唆するものである。 以上の結果をもとに、論文の執筆や国内学会へ参加、更にアメリカおよびメキシコで行われた国際学会において海外の研究者との議論や情報交換にも努めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
光学系の構築及び励起子輸送のマッピング測定を計画通り行った。その結果、励起子ホール効果とバレー励起子の輸送の観測に成功した。一方でその拡散長やホール角といった物性値は予想された値よりも大きく、これは本物質系の応用上の潜在性を強く示していると言える。これら特異な物性を説明するための後続研究を現在も続けている。 デバイス研究は計画の光学研究に先立って、電気伝導特性の研究を重点的に行った。また計画にはなかった疑1次元物質を用いた光電気デバイスも行い、新たな機能性デバイスの開発にも成功した。 また、2次元物質におけるスピン機能の研究が世界的に急速に進んでいる背景を鑑みて、計画を前倒ししてスピン自由度との結合を目的とした層状磁性体の研究を開始した。この電気的・光学的な基礎研究により、これら物質群が本研究の目的である光・バレー・スピン複合機能の発現の場として適切であることが分かった。 以上のように、計画通り進んだ点に加え、観測した新現象の物性値の評価や考察、計画を超えた新奇デバイス作製や新物質を用いたスピン機能の探索などが進んだことから、本研究は当初の計画以上に進展していると結論した。
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今後の研究の推進方策 |
本年度の研究で得られたバレー励起子の輸送現象に関して、トランジスタ構造による電気的な制御を行い、またカー効果測定や温度勾配測定などの別プローブも用いてその微視的起源に迫る。また本年度構築した測定系を用いてバレー流を用いた能動的な発光デバイスの実証を目指す。 また計画していた磁性電極・白金電極のみならず層状磁性体も用いて、これらと遷移金属ダイカルコゲナイド単層を組み合わせたデバイスを作製・測定し、新たにスピン自由度も取り込んだ複合機能の開発に取り組む。
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