本年は前年度から続けている磁性体と2次元物質を用いたヘテロ界面における光機能を研究した。これは光・スピン・バレーが複合的に絡み合う機能が発現する舞台であり、本研究の最終目的とするところそのものである。複合機能を創出・研究するにあたり、異種の物性が交わり合うヘテロ界面の研究が必要であり、そのために近年注目が集まる新たなヘテロ界面であるファン・デル・ワールスヘテロ界面に着目した。 具体的には複数種の磁性体と2次元物質の代表的な1つである二セレン化モリブデン(MoSe2)のヘテロ界面を作り、そのMoSe2中の励起子と呼ばれる光と結合した状態が磁性体中のスピン秩序の影響でどのように変調されるかを、光学測定を用いて明らかにした。MoSe2を始めとする半導体群はその光特性から注目されており、またその電子構造からも界面でのスピン自由度との結合が期待できる。結果として、本研究を通じてファン・デル・ワールス磁性ヘテロ界面において、光と密接にかかわる励起子が磁性体中の励起と結合していることが分かった。またその結合に際し、MoSe2が有するバレーがその媒介において本質的に絡んでいる可能性を発見した。 本研究は今まで物質科学・光物性物理の各分野に閉じていた2次元物質の励起子が、他の系との結合を通じスピントロニクスや量子エレクトロニクスなどへと分野横断的に広がっていく可能性があることを示している。今後も本研究に留まらず、2次元物質を用いた複合機能の研究が広がっていくと期待できる。
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