哺乳類には脳の視交叉上核(SCN)を中枢とする約24時間周期の体内時計が備わっている。しかし、現代社会においては、昼夜交代勤務や夜型生活による生体リズムの乱れに起因する不眠症や精神疾患、生活習慣病が問題となっている。申請者は、SCNに局在するリガンド未知のGz共役型オーファン受容体分子Gpr176が、中枢時計の周期調節能を有することを見出した。G蛋白質共役型受容体は医薬品の最も重要な標的分子群である。そのため、中枢時計機能に深く関わるGpr176はリズム調整薬の標的として大きな期待が持てる。そこで本研究では、Gpr176のリガンドアッセイ法を樹立するためにG蛋白質の活性化を観察できる新たなバイオセンサーを開発した。具体的には、G蛋白質が不活性化状態ではαβγサブユニットからなる三量体を形成し、活性化に伴いαとβγに解離することに着目し、スプリットルシフェラーゼの技術を導入することでG蛋白質の活性化状態の変化を発光シグナルの変動として検出することに成功した。Gzシグナルの下流で変動する細胞内cAMP濃度を測定する従来の手法とは異なり、本アッセイ系はGzの活性化を特異的かつ直接的に観測できるため、より優れたアッセイ系であるといえる。また、本アッセイ系は他のGz共役型GPCRにおいてもGzシグナルの検出が可能であることを確認しており、Gpr176のみならず他のGz共役型のオーファン受容体のリガンド同定にも有効なツールになると期待される。
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