2019年度は量子アニーリングのボトルネックの1つである1次相転移を回避するのに非疑似古典的(non-stoquastic)Hamiltonianが有用かを明らかにするため,横方向反強磁性(非疑似古典的)相互作用と横方向強磁性(疑似古典的)相互作用の効果を比較する以下の2つの研究を行った. 1. 2種類の強弱クラスタ模型の相転移を解析した.強弱クラスタ模型のIsing Hamiltonianは強クラスタ内の強い上向き縦磁場,弱クラスタ内の弱い下向き縦磁場,クラスタ内とクラスタ間の2体強磁性相互作用からなる.第1の模型は平均場的な全結合相互作用を持ち,第2の模型は各クラスタ内の全結合とクラスタ間の疎結合を持つ.先行研究では第1の模型の数値対角化が行われ,クラスタ間に横方向の非疑似古典的相互作用を加えると一様横磁場中の量子アニーリングが持つ1次相転移を回避できることが示された.本研究では第1の模型を準古典的手法で,第2の模型を鞍点法による分配関数評価で解析し,横方向の非疑似古典的もしくは疑似古典的相互作用を強クラスタ内,弱クラスタ内,クラスタ間のどこに加えると量子アニーリング中の1次相転移が消失するのかを明らかにした. 2. フラストレートした梯子型Ising模型の相転移を解析した.先行研究では一様横磁場中の模型の数値対角化が行われ,トポロジカルな起源を持つ1次相転移が存在することが示された.本研究では横方向相互作用付きの横磁場Ising Hamiltonianの相転移を,変分法を組み合わせた実空間くりこみ群法で解析し,横方向相互作用を加えても量子アニーリング中の1次相転移は除けないことを示した.しかし,横方向の非疑似古典的相互作用を加えることで相転移点でのフラストレーションがわずかに小さくなり,サイズ増大に対するアニーリング時間の発散率が抑えられる可能性を示唆する結果が得られた.
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