研究課題/領域番号 |
17J09223
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
平城 慎也 九州大学, 理学府, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2017-04-26 – 2019-03-31
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キーワード | 油/水界面膜 / 二分子膜ベシクル / ドメイン / 線張力 / 界線活性分子 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、生体膜ラフトの様な微小ドメインの分散構造形成原理を線張力の観点から紐解くことである。リン脂質/コレステロールからなる生体膜を模した油/水界面膜や二分子膜ベシクル等でのドメイン形態(サイズ・形状)は、ドメイン境界に生じる線張力により定まると提唱されており、流動性等のドメイン物性、対流等の場の影響、そして線張力のオーダーといった条件に適した線張力計測基盤を構築することが求められる。また、界面活性分子が界面張力を低下させミクロ液滴が安定に分散した構造をもたらすことから、線張力を低下させ微小ドメインの分散構造をもたらす界線活性分子の存在が予想される。そのため、本研究では、まずドメイン形態/線張力間の相関を明らかにし、更に、界線活性分子による線張力への影響を検証する。 1:二分子膜ベシクルを対象とした蛍光顕微鏡観察実験では、ドメインの境界線で熱揺らぎが観測された。揺らぎのフーリエ級数解析するコードを作成し、実際に線張力の定量まで成功した。 2:油/水界面膜の観察はブリュースター角顕微鏡によって実施された。対流等の場の影響を抑えるため、均一恒温ができる様に環境を整えたところ、ドメインの観察に成功した。この結果、ドメインは固体様で熱揺らぎしておらず、上の計測法が適用できないことが判明した。これを踏まえ、界面に電場を作り変形させたドメインの形状緩和過程を追跡し線張力を定量する手法に着手するに至っている。 これらに加え、飽和リン脂質/不飽和リン脂質/コレステロールからなる3成分ベシクル系を対象に、ドメイン内外の組成が調べられ、ドメインは飽和リン脂質に富み、周囲の領域は不飽和リン脂質に富むことが確かめられている。従って、次年度の研究では、この系における界線活性分子の候補として飽和鎖/不飽和鎖を併せ持つハイブリッドリン脂質を用いて、界線活性分子が線張力に及ぼす効果を検証する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は、油/水界面膜のドメイン構造観察に成功したことと、二分子膜ベシクル系での線張力計測法の確立したことの、2つの大きな成果を挙げた。 油/水界面膜のブリュースター顕微鏡観察(BAM)は気/液界面に比べ極めて難しかったが、界面でのブリュースター角とガラス窓の不均一性による干渉の抑制を考慮した新規BAM用セル、及び温度制御用ジャケットの設計・作製に取り組み、問題解決を図った。また、ドメインの物性より既に構築済みの線張力計測法で線張力を定量することはできなかったが、新たな計測法を着想し、実際に導入しつつある。 二分子膜系を対象とした研究の際には、コーネル大学のFeigenson教授の下に留学し、蛍光顕微鏡によるドメイン観察法を習熟し、線張力計測法の意見交換を積極的に行った。帰国後、ドメイン観察や線張力定量に成功する等、留学先で培ったノウハウや知識を自身が所属する研究グループに還元している。
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今後の研究の推進方策 |
今年度の研究結果を踏まえ、来年度は次の研究を実施する; 1.液/液界面膜での線張力計測に向けた取り組みを継続する。また、種々の系で線張力を計測し、単分子膜系におけるドメイン形態/線張力間の相関や線張力に最も影響を与える因子を評価する。 2.飽和リン脂質/不飽和リン脂質/コレステロールからなる二分子膜ベシクルにハイブリッドリン脂質を混合させ、界線活性分子が線張力に及ぼす影響を評価する。界線活性分子がどのように線張力に影響を及ぼすかを明確にするため、二分子膜ベシクル系のドメイン内外の物性評価ができる中性子線散乱実験や蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)法や、線張力を生み出す因子を解明するために線張力計測用解析コードの改良にも着手したい。実際に微小ドメイン分散構造が確認された場合、構造情報から分散エントロピーを評価し、ドメイン分散構造の熱力学的安定性まで評価する。
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