生体膜のラフトと呼ばれるナノドメインは、膜の高度な機能の場として注目されている。ドメインの境界線にはpN程度の過剰エネルギー;線張力が生じており、線張力に寄与する以下の2つの因子;界線を収縮させる“接触エネルギー“と界線を伸長させる”双極子間斥力”の拮抗によりドメインの形態(形状とサイズ)が決まると予想されている。そこで本研究では、生体膜のモデルとしてリン脂質やコレステロールからなる単分子膜や二分子膜を対象に選び、ドメイン形成や形態と線張力との関わりを詳細に検討した。 1.単分子膜系:界面張力法、X線反射率法、ブリュースター角顕微鏡を組み合わせることで、コレステロールとリン脂質が凝集した高分子密度膜領域にリン脂質に富む数μm程度の低密度ドメインが分散した不均一構造を形成することが判明した。ドメイン内外の正確な組成も定量することに成功し、ドメイン形態がドメイン内外の分子混合状態と相関していることを実証した。その一方で、接触エネルギーと双極子間斥力を見積もるのに使われる従来の理論式が、混合系における両物性値を算出するのに適しておらず、更なる改良が必要であることも見出された。 2.二分子膜系:前年度末、コーネル大学にて行った飽和脂質、不飽和脂質及びコレステロールからなる二分子膜を対象とした線張力計測実験の結果を再解析した。その結果、ドメイン内外の厚みの差が線張力に大きな影響を与えることを実験的に見出した。一方で、実験値と従来の理論より算出された理論値との値は大きく隔たっており、こちらの系でも理論式の見直しが必要であることが示唆された。
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