研究課題/領域番号 |
17J09227
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研究機関 | 愛媛大学 |
研究代表者 |
秋月 一駿 愛媛大学, 愛媛大学大学院連合農学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2017-04-26 – 2020-03-31
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キーワード | CaMKI / プロテインキナーゼ / ゼブラフィッシュ / 活性調節 / 自己リン酸化 |
研究実績の概要 |
当研究室では以前、ゼブラフィッシュ胚発生過程の鍵酵素としてカルモジュリン依存性プロテインキナーゼ Iδ (CaMKIδ) を同定した.CaMKIはCa2+シグナルの下流で働き、CaMKKによるリン酸化を受け強く活性化する.本研究では、CaMKIδの詳細な活性調節機構や器官形成における生理機能の解明を目的とした. 1. 新規活性化メカニズムの解析 我々は、大腸菌で発現させたCaMKIδ(1-299)がCaMKKのリン酸化を受けなくても活性化していること、そして高度に自己リン酸化していることを見出した.自己リン酸化と酵素活性の因果関係を調べるために、λホスファターゼを発現する大腸菌株を開発し、これを用いて取得したCaMKIδ(1-299)のキナーゼ活性を調べたところ、CaMKIδ(1-299)のCaMKK非依存的活性化には自己リン酸化が必須であることが判明した.MS/MS解析と部位特異的変異体を組み合わせた解析を行った結果、CaMKIδ(1-299)はSer296の自己リン酸化によって活性化していることが明らかになった.このことから、CaMKIδアイソフォームにはSer296のリン酸化を介した新規の活性化機構が存在することが示唆された. 2. 軟骨形成における生理機能の解明 ゼブラフィッシュ胚においてCaMKIδの遺伝子ノックダウンを行うと軟骨に異常が観察される.この分子メカニズムを明らかにするためにCaMKIδの結合タンパク質を解析したところ、転写因子 (Dlx1とDlx5) が同定された.Dlx1,5は変性条件下で精製された場合にはCaMKIδによってリン酸化されたが、GST融合タンパク質として精製したDlx1,5はCaMKIδによってほとんどリン酸化されなかった.このことからCaMKIδは生理的な条件下ではDlx1,5を基質としないことが示唆された.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
CaMKIδ(1-299)の新規活性化メカニズムについて、昨年度は未だ活性化に関わるCaMKIδ(1-299)の自己リン酸化サイトは同定できていなかったが、今年度実施したMS/MS解析と様々な点変異体を組み合わせた解析から、その責任リン酸化サイトはSer296であることを明らかにした.また、リン酸化ミミック変異体を用いた実験から、Ser296の自己リン酸化はFLにおいても活性化に寄与することが強く示唆されており、Ser296のリン酸化介した新規活性化機構が生理的にも意味を持つ可能性を示している.本年度明らかにしたCaMKIδ(1-299)の新規活性化メカニズムについては現在論文を投稿中である.また、CaMKIδの軟骨形成に関わる新規基質の探索について、可溶性画分から取得したGST-Dlx1,5をCaMKIは好んでリン酸化しないことを明らかにした.このことから、CaMKIδとDlx1,5は結合するものの酵素ー基質の関係では無いこと、軟骨形成に関わるCaMKIδの基質タンパク質は別に存在することが強く示唆された. 以上のように、新規活性化メカニズムについては活性化に関わるサイトの同定が完了し、現在論文を投稿中であること、もう一方のテーマについても基質候補について慎重に吟味しながら真の分子メカニズムの解明へと着実に進んでいることから、本研究は順調に進展していると評価できる思われる.
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今後の研究の推進方策 |
1. 新規活性化メカニズムの解析 CaMKIδ(1-299)においては、Ser296のリン酸化によってCaMKK非依存的に活性化することが明らかになったが、full-lengthのCaMKIδ [CaMKIδ(FL)]において、この活性化メカニズムが生理的に存在するかは定かではない.そこで、今後はまずリン酸化Ser296に対するリン酸化部位特異的抗体を作製し、CaMKIδ(FL)のSer296が生体内でもリン酸化されているかどうかを調べようと考えている.もし生理的に起こるメカニズムであれば、CaMKIδのSer296は他のキナーゼによりリン酸化されている可能性が高いため(Ser296の自己リン酸化反応はかなり非効率的である)、その責任キナーゼを同定していきたいと考えている.
2. 軟骨形成における生理機能の解明 変性条件で取得されたDlx1,5はCaMKIδによりリン酸化されたが、可溶性画分から精製したDlx1,5(ネイティブ)はCaMKIδによってほとんどリン酸化されなかった.このことは、CaMKIδがDlx1,5とは異なる別のタンパク質をリン酸化することで、軟骨の形成に寄与していることを示唆している.そこで今後は、CaMKIδの良好な基質となり、軟骨形成に関わる新規基質を探索していく予定である.特に軟骨形成に関わる転写調節因子に着目した解析を行っていく.
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