研究実績の概要 |
当研究室では以前、ゼブラフィッシュ胚発生過程の鍵酵素としてカルモジュリン依存性プロテインキナーゼ Iδ (CaMKIδ) を同定した.本研究では、CaMKIδの新規活性化メカニズムおよび胚発生過程における生理機能の解明を試みた.
CaMKIδのC末欠損変異体 [CaMKIδ(1-299)] は,CaMKKのリン酸化を受けなくても自己リン酸化で活性化することを見出した.そこで,CaMKIδ(1-299)の自己リン酸化部位を同定するため,MS/MSと点変異体を組み合わせた解析を行い,Ser296が活性化に重要な自己リン酸化サイトであることを明らかにした.また,CaMKIδのリン酸化ミミック変異体は,CaMKK存在下において,CaMKIδ(WT)よりも約4倍高いキナーゼ活性を示すことが判明した.以上から,CaMKIδはSer296のリン酸化を介した活性化メカニズムを持つことが示唆された (Akizuki et al., Arch. Biochem. Biophys., 2019).
ゼブラフィッシュ胚において,CaMKIδは軟骨形成を正に制御する可能性が示唆されている.我々は,CaMKIδと結合する転写因子 (Dlx1とDlx5) に着目した研究を行ってきたが,GST-Dlx1,5を基質にしたin vitroキナーゼアッセイの結果,GST-Dlx1,5はCaMKIδにほとんどリン酸化されないことが判明した.そこで,軟骨細胞分化のマスター因子 (Sox9) に着目し,Sox9がCaMKIδによってリン酸化されるかどうかを調べたところ,in vitroではわずかにリン酸化されたものの,細胞内でSox9はCaMKIδにリン酸化されないことが明らかになった.以上から,CaMKIδはDlx1,5/Sox9以外のタンパク質のリン酸化を介して軟骨形成を制御することが示唆された.
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