研究実績の概要 |
電流励起有機半導体レーザーの開発に向けて,光子-励起子相互作用によるレーザー発振のアプローチから研究に取り組んでいる.本年度は有機薄膜の励起子モードと共振器光子モードが強結合した共振器ポラリトンの状態の生成を目的とし,マイクロキャビティ構造をもつ有機EL素子の作製と評価を行った.マイクロキャビティ素子は正孔輸送層に5,5’-bis(4-biphenylyl)-2,2’-bithiophene (BP2T)を,活性層/電子輸送層にBP2Tの分子両末端をシアノ基置換した5, 5’-bis(4’-cyanobiphenyl-4-yl)-2,2’-Bithiophene (BP2T-CN)を,正孔注入層に酸化モリブデンを真空蒸着により積層し,それらを金陽極とITOコートした分布ブラッグ反射型(DBR)ミラー(R >99.5%)で挟み込んだ構造とした.ハロゲン-重水素ランプを光源に用いた角度分解反射スペクトルにおいて,DBRミラーの高反射帯域中で入射,および反射角度の増加に伴い,活性層のBP2T-CNの励起子モードに漸近する,高エネルギー側にシフトするディップの分散が室温大気下で確認された.1つの共振器光子モードと2つの励起子モードの強結合における現象論的ハミルトニアンを用いた解析から,250 meV程度の大きな真空ラビ分裂エネルギーが得られた.また, BP2T-CN膜の膜厚に増加に伴い,真空ラビ分裂エネルギーや発光スペクトルの半値全幅,負のデチューニングの大きさの増加が確認され,作製したマイクロキャビティが強結合状態において機能することが分かった.さらに,同素子の角度分解PL,ELスペクトルにおいて,反射スペクトル測定結果に対応する,LPBのピークの分散を観測しており,電流励起下においても励起子ポラリトンの生成が示唆された.本研究結果は現在,原著論文の投稿準備中である.
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