研究課題/領域番号 |
17J09397
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研究機関 | 大阪府立大学 |
研究代表者 |
乙山 美紗恵 大阪府立大学, 工学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2017-04-26 – 2020-03-31
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キーワード | バルク型全固体電池 / 電極複合体 / 構造解析 / 硫化物系固体電解質 / 熱安定性 |
研究実績の概要 |
LiNi1/3Mn1/3Co1/3O2(NMC)正極とLi3PS4ガラス(LPS)電解質からなる正極複合体を用いたバルク型全固体電池は、高いサイクル特性を示すことが報告されてきている。しかし、初期充電状態の複合体のTEMによるその場加熱観察より、高温で電解質が分解していることが明らかとなった。電解質に求められる性能として、導電率や成形性だけでなく、化学的安定性も重要であると考えられる。大気中の水分に対する電解質の安定性はHard and Soft Acids and Bases (HSAB)則に従うとされており、リンよりもやわらかいルイス酸であるスズを用いたLi4SnS4 (LSS)電解質はLPS電解質よりも大気にさらした際の硫化水素発生量が少ないことを報告してきた。そこで、高い化学的安定性と比較的高い導電率 (焼結体: 1.1×10-4 S cm-1)を有するHexagonal LSS電解質を用いた正極複合体を作製し、LPS電解質を用いた場合と熱安定性を比較した。初期充電状態の熱安定性を調べたところ、NMC-LSS正極複合体のほうが、より高温で分解生成物である遷移金属硫化物を観測し、NMC-LPS正極複合体よりも熱安定性が高いことがわかった。さらに、あらかじめ熱処理をした正極複合体を用いて全固体電池を作製したところ、NMC-LPSでは電池特性が大きく低下したのに対し、NMC-LSSではLSSの高い化学的安定性から分解反応が生じず、LSSの結晶性増加による導電率の増加により、レート特性が向上することがわかった。 黒鉛負極と硫化物系固体電解質からなる負極複合体を用いたバルク型全固体電池作製時のプレス方法を変えることで、複合体のモルフォロジーが変化することを見出した。さらに、黒鉛を縦方向に配向させることで、レート特性の向上に有利になりうるような複合体を作製できることを提案した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
平成30年度は、活物質-電解質界面についての詳細な解析を行うことを目標としていた。これまで、共同研究で行っていたその場加熱TEM観察による正極複合体の熱安定性評価から、Li3PS4ガラス電解質を用いた場合、高温で電解質が分解することを明らかにしてきた。そこで、熱安定性の高い電解質として、リンの代わりにスズを用いたLi4SnS4電解質が適していることを新たに見出すことができた。これは、ホットプレスや焼結などといった電極複合体作製プロセスや、電池の高温作動などに繋がる実験成果と言える。 また、予定していた走査型プローブ顕微鏡のメンテナンスも完了した。研修等にも積極的に参加し、解析に関する知識を吸収することができた。
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今後の研究の推進方策 |
これまでに解析で得られた結果から正極、負極側ともに最適な電極・電解質材料の組み合わせを検討し、バルク型全固体電池における電極複合体の最適化を行っていく。選択した電極・電解質材料の特性を活かして、電池性能がさらに向上するような電極複合体作製プロセスについても検討する。
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