最終年度である本年度は、昨年度からの課題であった孟京輝(演出家、1965-)に加え、伝統演劇風の作風を特徴とする李六乙(演出家、1961-)について調査・考察を進め、論文を執筆した。また、これらを含むこれまでの研究成果を総括し、博士論文「ドラマをめぐる実験:改革開放後の中国小劇場演劇研究」の執筆に取り組んだ。 社会批判的な作風から商業重視への転向が取り沙汰されてきた孟京輝の検討からは、中国における演劇興行の状況、文化政策(「文化体制改革」)の変遷、政府によるコンテンツ審査、文化と政治イデオロギーの連関について明らかにし、論文とした。加えて、伝統演劇と現代演劇との関わりを明らかにするため、京劇などを取り入れながら現代演劇を創作してきた李六乙に着目し、李六乙が重んじる「民族化」(中国化すること)、中国伝統演劇の特質である「写意」と呼ばれる演技方法について読み解くことを試みた。李六乙は「民族化」を継承しつつ、忠実な再現に特化してきた既成のリアリズム演劇を解体する実験も行っていること、必ずしもそれらが観客に好評であるとは限らない現状を、論文としてまとめた。本年度の論文は投稿までは遂行できなかったものの、文化政策をより掘り下げ中国現代史研究会にて口頭発表を行った。博士論文では、以上を含めた4人の演出家、および中国小劇場演劇前史である20世紀の外国演劇受容を論じ、中国小劇場演劇における営利興行の様相、ドラマ(戯曲)とリアリズムの解体の実験や創造の奮闘の実況について明らかにした。博士論文の総括について、日本比較文学会中部支部院生ワークショップにおいて口頭発表を行った。
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