前年度までに、Rho-KinaseによるSynGAP1のリン酸化依存的に、SynGAP1とシナプス後肥厚部に存在する足場タンパク質であるPSD95との相互作用が制御されることを見出している。本年度は培養線条体神経細胞を行い、NMDA型グルタミン酸受容体のアゴニストであるグリシンによる化学的な長期増強誘導がSynGAP1とPSD95との相互作用に影響を及ぼすかどうかを検討した。グリシン処置により長期増強を誘導後、抗SynGAP1抗体を用い免疫沈降実験を行った。その結果、コントロールと比較して、長期増強を誘導することによりSynGAP1とPSD95と結合量が低下した。この結合量の低下はRho-kinaseの阻害剤であるY27632の前処置により抑制された。次に、培養線条体神経細胞を用いて、神経細胞のスパインにおけるSynGAP1の局在を解析した。化学的な長期増強の誘導が、SynGAP1とPSD95の共局在に影響を及ぼすかどうかを免疫染色により検討した結果、コントロールと比較して、長期増強を誘導することによりSynGAP1とPSD95の共局在量が低下し、Y27632の前処置によりSynGAP1とPSD95の共局在量の低下が抑制された。さらに、SynGAP1を発現するアデノ随伴ウィルス(AAV)を作製し、神経細胞に導入することで、Rho-KinaseによるSynGAP1のリン酸化とスパインの形態変化との関連を解析した。その結果、コントロールと比較してスパインの体積はRho-kinaseによるSynGAP1のリン酸化によって増大し、その体積の増大はY27632の前処置により抑制された。したがって、Rho-KinaseによるSynGAP1のリン酸化依存的に、神経細胞のスパインにおけるSynGAP1の局在とスパインの体積が制御されることが示唆された。
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