科学研究費助成事業研究計画調書において、本研究員は平成30年度に(1)若齢マウス、加齢マウスの精子クロマチン構造比較、(2)環境因子曝露マウス精子の採取、および、NPMを用いた精子クロマチンサンプル調整およびChIP-seqの実施、精子クロマチン構造比較を予定していた。今年度は、上述の研究計画の内、(1)若齢マウス、加齢マウスの精子クロマチン構造比較を中心に進行した。
昨年度までの研究結果から、若齢マウスでは精子残存ヒストンがその修飾状況によって特徴的な局在を示すという知見を得ていたので、今年度は昨年度までに確立した精子ヒストン局在解析の手法を用いて、若齢マウスおよび加齢マウスの比較検討を行った。解析の結果、若齢マウスで確認される精子残存ヒストン局在、特に修飾ヒストン局在が、加齢マウスでは大きく変動していることが確認された。また、この精子ヒストン局在に変動が起こった領域は、神経系発達に重要な遺伝子領域であることが判明し、次世代の遺伝子の発現変動と有意に相関を示すことが判明した。この結果はエピジェネティック遺伝を示唆するものであり、他のエピジェネティック因子である、DNAメチル化やsmall non-coding RNAとは発現変動が起こった遺伝子とは有意には相関しなかったことから、精子ヒストンおよび修飾ヒストンを介したエピジェネティック遺伝が引き起こされたことを強く示唆するものである。
また、昨年度までの研究結果であるNPMを用いた精子ヒストン局在解析の手法を纏めた、”Re-evaluating the Localization of Sperm-Retained Histones Revealed the Modification- Dependent Accumulation in Specific Genome Regions.”がCell Reports誌に掲載され、今年度得られた成果に関しては、現在論文投稿を行なっている。
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