研究課題/領域番号 |
17J09485
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
森 千紘 東京大学, 総合文化研究科, 特別研究員(PD)
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研究期間 (年度) |
2017-04-26 – 2020-03-31
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キーワード | コミュニケーション / 発声学習 / 求愛行動 |
研究実績の概要 |
動物は発声の他に視覚や嗅覚など様々な感覚信号を用い、時にはそれらを組み合わせてコミュニケーションを行う。本研究は、発声と発声以外の運動という複数のモダリティにまたがるコミュニケーション行動の機能と神経メカニズムを解明するため、ブンチョウの求愛歌とダンスを対象として実験を進めている。ブンチョウの求愛行動は、オスから始める際はダンスから始まり、メスが逃げる等の拒否行動を起こさず近くにとどまるとうたい始め、メスが交尾受け入れ姿勢をとれば交尾行動にいたる場合がある。この一連の行動を踏まえ、発声学習・制御に関わる歌神経回路が、発声学習により獲得した歌とダンスを協調させる行動に関与している可能性について検証する実験に取り組んだ。 ダンスの動きの自動追跡記録のためにブンチョウの頭部に取り付けた赤外線LEDを利用し、行動中の頭部の動きの記録・解析を行った。その結果、ダンス要素であるホッピング間隔について、うたっていないとき(歌の前後)よりもうたっているときの方が短くなっていることがわかった。また、うたっているときのホッピング間隔は後半になるにつれて短くなる傾向にあった。このことから求愛歌とダンスを制御する神経回路に相互作用がある可能性が推測されたため、歌の時系列配列を制御する脳領域に着目し、神経活動記録と局所破壊実験を行っている。薬理的な両側完全破壊、部分破壊、片側破壊を行い、破壊前後の歌とダンスを比較し、この脳領域についてはダンス行動の制御に関与する可能性が低いことを示唆する結果を得ている。この実験については今後、破壊領域の範囲を詳細に検討し議論する必要がある。これらの研究成果について、国内学会において発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究計画として、ダンス行動の定量化と解析、ダンス行動中の神経活動記録、ダンスに関わる神経活動操作を目標としていた。これらのうち、ダンス行動の定量化と解析を実施し、神経活動記録と操作実験について準備・実施を進め、これに加えて局所破壊実験を実施している。 現在までに、ダンスの動きの自動追跡記録のために赤外線LEDを利用した実験系を確立し、行動中の頭部の動きを記録・解析できるようにした。これにより、個体ごとのダンスの動きの傾向と歌との関係を調べ、ホッピング間隔が歌のありなしによって変化することを発見した。神経活動記録については、オス・メスともに神経活動記録を進めているが、記録中において求愛行動を示す回数が少ないという問題があり、解析可能なデータを集める試行錯誤を続けている。神経活動操作実験については、光遺伝学実験系の確立を目指し光感受性タンパク質を組み込んだウィルスベクターを標的脳領域に注入し、光刺激と神経活動記録による神経活動操作の検証を続けている。神経活動記録と操作実験が予定通りに進んでいないことから、局所破壊実験を追加し、標的脳領域について歌とダンスを組み合わせた求愛行動への関わりを調べる実験を並行して行っている。薬理的手法を用い標的脳領域について局所的・可逆的な不活化を行い、歌の構造や頻度に影響はあるが、ダンスに大きな変化が起きないことを示唆する結果を得ている。
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今後の研究の推進方策 |
ダンスと求愛歌の関係についてのより詳細な行動解析を進め、その神経メカニズムについての研究を引き続き行い、研究成果をまとめる。行動解析については、ひとり歌と求愛歌の違い、歌とダンスの時系列配列、オスとメスで同調しているときとしていないときの違いに着目して調べる。これらによって、学習により獲得した歌とダンスの協調と機能について行動学的側面から考察する。神経メカニズムについては神経活動記録と操作実験を進め、標的脳領域の歌とダンスの協調への関わりについて検証を行う。ただし,これらの実験についてはそれぞれデータ取得の効率化と実験系確立の段階で問題があり、解決策を模索しながら進めているため、最終年度内に研究成果をまとめることが難しいことが予想される。この代替案のアプローチとして局所破壊実験を並行して進め、歌とダンスの協調に関わる脳部位について歌の時系列配列を制御する脳領域や社会的文脈で神経活動が変化する脳領域を中心に調べていく。以上で得られる研究成果について、国内外の学会で発表し、これまでに得られた結果と合わせて学術誌上での発表を目指す。
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