研究課題/領域番号 |
17J09520
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
重松 英 京都大学, 工学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2017-04-26 – 2020-03-31
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キーワード | スピントロニクス |
研究実績の概要 |
SiC半導体への高効率スピン流注入材料として,当初イットリウム・鉄・ガーネット(YIG)に注目し,絶縁体であるYIGとSiCとの接合を検討した.これは,従来の手法に従ってNiFe/n型4H-SiC界面を形成したところ,ショットキー障壁に起因する空乏層が形成されスピン流注入に支障が生じたためである YIGからPtなどの金属材料への高効率なスピン流注入も以前から報告されている.予備的検討段階として,YIG自身のもつスピン波熱輸送効果の測定を行った.これまでのYIG/金属接合のスピン注入の実験と異なり,ゼーベック係数の大きいYIG/半導体接合では,逆スピンホール効果による起電力とスピン波熱輸送効果によるゼーベック起電力が重畳してしまう問題がある.実験においては,膜厚1.2μmのYIG薄膜上にCuとSbからなる熱電対を作製した.薄膜YIG表面には強磁性共鳴(FMR)条件に近接した外部磁界においてDamon-Eshbachモードと呼ばれる進行スピン波が誘起されることが知られている.これによりマグノン・フォノン相互作用を介しての熱輸送効果が誘起される.測定の結果,この起源に基づく熱差が観測された.さらに,一様交流磁界中で熱輸送効果が観測されるメカニズムをマイクロマグネティック計算により明らかにした.一般的にゼーベック係数の大きい半導体を用いた測定では,この効果によるゼーベック起電力が目的とするスピンホール起電力に重畳してしまうことが危惧される.以上の研究結果をもって,YIGは半導体SiCへのスピン注入実験には好適でないと結論づけた. この問題を解決する手法として,4Hの晶系を3Cに変更することにより金属磁性体とのオーミック接合を実現するという手法を考案した.これにより,従来型のスピン注入・輸送・検出型のデバイスを作製でき,3C-SiC中のスピン輸送を示唆する信号を得られた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初のYIGをスピン注入源として用いる手法は適用できないことが実験的に確かめられたが,3C-SiCを用いるという新たな手法により,問題の打開ができた. 当初の計画におけるYIG/SiC界面を用いる手法における問題点が明らかになったが,その要因の物理的背景を明らかにすることができ,半導体スピントロニクスの発展に資する成果を得ることが出来た.具体的には,実験的測定とマイクロマグネティック計算の両面からYIG表面に誘起される熱勾配の起源を解明できた.また,本研究課題の実現に向けては,SiCの晶系を変更するというこれまでとは異なるアプローチにより問題解決が図られ,来年度研究計画の遂行に資する成果を得ることが出来た.
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今後の研究の推進方策 |
今後は,3C-SiCを用いたスピン注入・輸送・検出型デバイスによるSiCのスピン流物性の評価を進めていく.具体的には,デバイス設計におけるスピン輸送長や試料温度を変化させて,スピン信号の依存性を調べる.スピン流輸送のチャネルとなる3C-SiC中のキャリア濃度やキャリア運動量緩和時間を変化させた実験によって3C-SiC中のスピン流散乱物性の包括的な理解を目指す.さらに,これらの物性変調実験のために,従来の手法に加えてイオン液体を用いたゲート印加など新しいアプローチでの実験も検討する. さらに,SiCをチャネルとした半導体スピントロニクスのデバイス応用を考える上で,電気的スピン注入の検討は重要である.今後の研究では,電気的な手法に必須な磁性体金属/絶縁体/半導体構造の開発にも取り組む.Siにおける先行研究を踏まえ,高バンドギャップ半導体への電気的スピン注入に好適な界面処理のプロセス開発を進める.
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