研究課題/領域番号 |
17J09577
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
加藤 紫苑 京都大学, 文学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2017-04-26 – 2019-03-31
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キーワード | シェリング / ドイツ観念論 / ドイツ・ロマン主義 / 世界時代 / 哲学と芸術 / 新しい神話 / 芸術終焉論 / 積極哲学 |
研究実績の概要 |
本研究の課題は、中期シェリングの主要著作『世界時代』の分析を通して、ヘーゲルによるシェリング芸術哲学の批判とそれに基づく《芸術終焉論》がシェリング自身によっていかに再批判されるのか、という問いに答えることにある。この問題意識のもとに平成29年度は以下の活動を行った。 第一に、一次文献の読解と平行して、近年の最も重要な『世界時代』研究であるヴォルフラム・ホグレーベの『述語づけと世界創造』(1989)の翻訳に取り組んだ。訳稿は一通り完成し、平成30年度中の刊行を目指し、現在推敲中である。この翻訳を通して本書の研究に必要な基本文献や考慮すべき論点を確認することができたほか、後述のガブリエル教授のシェリング解釈に対するホグレーベの影響の大きさも再認識することができた。 第二に、哲学と芸術の関係という問題について、やや広い観点から、二つの論文を発表した。一つは「詩と哲学 ―ノヴァーリスと産出的構想力」と題するもので、ノヴァーリスをとりあげ、ロマン主義を代表する《文学者》としてではなく、フィヒテから受け継いだ哲学的理論を独自に発展させた《哲学者》としての側面に改めて注目した。もう一つは「真理の場としての芸術―シェリング美学のアクチュアリティー?」と題するもので、現代哲学において《真理の場としての芸術》という思想が復活しつつあることに着目し、シェリング美学の現代性の可能性をさぐった。 第三に、2017年9月より、ボン大学国際哲学センターにてマルクス・ガブリエル教授のもとで研究活動を行っている。ガブリエル教授は著名なシェリング研究者であるだけでなく、独自の《新しい実在論》によってポストモダン以後の哲学シーンにおいて重要な位置を占める。教授のもとで学ぶことにより、現代においてシェリングがどのような意味をもちうるのか、その具体例を目の当たりにし、研究内容だけでなく、その姿勢から多大な影響を受けた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の中心的課題である『世界時代』の再解釈は、具体的には、(1)『世界時代』の構想の解明、(2)『世界時代』の過程の解明、(3)『世界時代』の成果の解明という三つの段階を踏んで行われる。 平成29年度は(1)と(2)に取り組む予定であった。(1)については、ホグレーベの研究を参照しながら、『世界時代』がいつ頃から構想され、どのように具体化していったのかについて大体のイメージをつかむことができた。しかし(2)については、やや不満足な点が残った。というのは、『世界時代』のテキストそのものの分析(三つの草稿の異同の研究)が未消化のままに終わり、『世界時代』の執筆の挫折の主要原因を十分に明らかにできなかったからである。ただしこれは継続的に研究を進めることによって、解消可能な問題(時間的な問題)であり、研究方針や研究計画そのものの変更を必要とするようなものとは考えられない。
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今後の研究の推進方策 |
上記の課題のうち(2)の残りの部分と(3)に取り組む。本年度の前半は『世界時代』の執筆の挫折の主要原因を十分に明らかにした上で、後半はこの挫折の経験がシェリングの後期哲学(特にその『神話の哲学』)にとってどのような意義を有しているのかについて考察する。そのためには、この挫折の経験をふまえて行われている『エアランゲン講義』の内容の分析が不可欠となる。そこで後半は主に『エアランゲン講義』の読解を中心としつつ、同時に上述のホグレーベ『述語付けと世界創造』の翻訳の刊行も目指したい。 また平成29年9月以来、ドイツ連邦共和国のボン大学国際哲学センターにおいてマルクス・ガブリエル教授のもとで研究を行っており、平成30年度の前半も引き続き同所において研究を行う予定である。ガブリエル教授との関連では、氏の主著とされる『意味と存在』の翻訳にもかかわっており、こちらも平成30年度中に刊行が予定されている。 さらにこれ以外にも、昨年度からの研究成果に基づいて国内外の学会において研究発表を行い、各機関誌に論文を投稿する予定である。
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