研究課題/領域番号 |
17J09630
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
鳴海 紘也 東京大学, 情報理工学系研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2017-04-26 – 2020-03-31
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キーワード | 印刷できるロボット / ラピッドプロトタイピング / 回路の転写 |
研究実績の概要 |
昨年度までは,ここまでに実装してきた印刷できるアクチュエータを,印刷した回路上のヒータによって駆動していた.しかし,実際には太陽光やお湯など多様な熱源を利用して駆動することができる.そこでまず,チューブや電気配線の一切存在しないパウチについての基本的な動きや機械特性ををまとめた. また,他の様々な複合素材式の薄型アクチュエータと比べた際の差分を明確にするため,Power-to-load ratioを計測した.この結果,3 g以下のパウチで3 kgのおもりを持ち上げられる(Power-to-load = 1000 以上)ことがわかった. 一方,印刷できるロボットを実装する上で,回路を印刷する際の基板をある程度自由に選択できることは非常に重要である.そこで,市販のインクジェットプリンタで印刷した回路を多様な粘着性の基板に転写することのできる技術,Silver Stickersを提案した.具体的には,あえて銀の定着が弱い紙を印刷に利用し,その後粘着性のある基板のファンデルワールス力を用いて複雑な銀のパターンを転写する.この手法のメリットとして,従来のインクジェット印刷可能な回路が持つ試作の容易さと,スクリーン印刷等に見られる基板の自由度という,2つの手法のいいとこ取りを実現している点である. 転写によって実現可能な回路の一例を提示する.Polydimethylsiloxane (PDMS)の表面に回路を転写したものは,高い可視光透過率を活かすことで基板が透明な回路とすることができる.一般的なセロテープに転写を行えば,従来インクジェット印刷回路に利用されてきた紙よりも遥かに薄型の回路を実現できる.カプトンテープに転写すれば,300℃程度までの耐熱性を持つ耐熱回路とすることができる.さらに水溶性のテープに転写することで,水に溶ける回路を実現することができた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
印刷できるロボットとしての最低限の構成要素はすでに達成できたと考える.具体的には,印刷できるアクチュエータの実装と評価は十分に行われた.一方,印刷できる回路に関しては,提案していたセンサ・回路・アンテナのうちセンサと回路はすでに実装した.アンテナに関しても,予備実験レベルでは給電用アンテナを印刷し,無線でロボットを駆動することに成功している. また,昨年発表した印刷できるアクチュエータに興味を持っていただいたことがきっかけで,様々な美術展示活動を実施できた.具体的にはまず,世界一のメディア芸術祭であるArs Elelctronicaで,周囲の気温に応じて自律的に呼吸する窓「Papilion」を展示した.また,2019年4月19日現在六本木ヒルズ森美術館で,ファッションブランドのANREALAGEと共同で,生きる服「AN LIVE UN LIVE」を展示中である.これらはどちらも実装された印刷できるアクチュエータをメインで使用した展示であり,研究の枠を超えて,アートや産業の中で実装した技術を広く使用できていることに大きな満足を感じる. その他,印刷された回路を多くの粘着素材に転写する技術「Silver Stickers」を提案した.これは,ワークショップや自身の実体験から,インクジェット印刷による回路試作の手軽さと,多様な基板の機能の両方を同時に実現したいと考えて実装したものである.実際に従来の紙の回路よりも薄い,耐熱性がある,透明である,水に溶けるなど,様々な機能を実装することができた.これらはもちろん本提案である印刷できるロボットにも適用可能である.
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今後の研究の推進方策 |
まず,やり残した機能であるアンテナを備えたロボットの実装を行う.さらに,これまでに実装されてきた様々なロボット(ちょうちょ,ハエトリソウ,Papilion, AN LIVE UN LIVE)などを合わせて,総決算となる論文を執筆する. その他,作業の進行状況に応じて,実装された印刷できるアクチュエータを使ったヒューマンインタフェースを実装し,ACM CHIに投稿する.これは,計画書の内容にも準拠するものであるが,それ以上に周辺でアクチュエータをインタフェースとして活用したいという声を受けたためである.
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