研究課題
木質バイオマスの約3割を占めるリグニンの高度利用法の開拓は、環境に調和した循環型社会の構築に必須の課題であり、多方面から検討されているが、実用化には至っていない。本研究では、優れたバイオマス生産性を示す大型イネ科植物のモデルとしてイネを用い、バイオマスの利用特性向上を目指したリグニンの構造改変を検討している。まず、芳香核水酸化酵素遺伝子の発現制御によりリグニンの芳香核組成を様々に改変した組換えイネの作出を行い、次に、得られる組換えイネにつきバイオマスの各種利用特性を調査し、リグニンの構造と各種利用特性の相関を解明する。以上により、利用目的に応じた分子育種技術の基盤を構築することを目的としている。我々は既に、OsF5H1の発現抑制および過剰発現によりリグニンのG核及びS核が、またOsC3H1の発現抑制によりH核が増強された組換えイネの作出に成功している。今回、G核及びH核をさらに増強させた組換えイネの作出を目指し、CRISPR/Cas9ゲノム編集法を用いてOsF5H1およびOsC3H1の機能欠損株の作出を行った。得られた変異株につきリグニン構造を各種化学分析法ならびに多次元NMR法を用いて解析したところ、興味深いことに、γ位がフリーのG核及びH核は野生株に対して増大しているものの、イネ科植物に特有のγ位がp-クマロイル化された芳香核種の割合は野生株と同程度であることが明らかとなった。この結果は、イネ科植物に特有の新規なリグニン生合成経路が存在することを示唆している。続いて、これまでに作出したリグニン改変イネを用いて、液体および固体燃料としてのバイオマス利用に関連して、糖化性および発熱量の評価を行った。その結果、H核およびS核の増強は、特に各種前処理法を組合せた糖化率の向上に有効であることを見出した。
1: 当初の計画以上に進展している
当初の平成29年度の計画では、CRISPR/Cas9法によるリグニン改変イネの作出により単一リグニン芳香核からなる組換えイネの作出を達成する予定であった。しかし、予想外にも標的とした2種類の芳香核水酸化酵素以外の芳香核水酸化酵素が関与するイネ科植物に特有の新規なリグニン生合成経路が存在する可能性が示唆された。一方、次年度に計画していたバイオマスの各種利用特性の評価については、平成28年度以前に得られたリグニン改変イネに対象を限定させて前倒しで着手し、リグニンの構造と各種利用特性の相関に関する新知見を得た。以上のように、当初予期していなかったイネ科植物におけるリグニン生合成機構に関する新知見が得られたこと、リグニン改変イネのバイオマス特性評価を前倒しで取り組んだことから、当初の計画以上に進展していると評価した。
平成29年度に得られたOsF5H1およびOsC3H1の機能欠損株の作出と、各種リグニン改変イネのバイオマスの利用特性の調査結果を、学術論文に纏める。さらに、これまでの研究成果から示唆されたイネ科植物に特有の新規なリグニン生合成経路の解明に向けて、研究を実施する。具体的には、イネにおいてリグニンの生合成にOsF5H1およびOsC3H1と冗長的に機能している芳香核水酸化酵素を、共発現解析や酵素機能解析等により探索する予定である。
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Planta
巻: 246 ページ: 337-349
10.1007/s00425-017-2692-x