研究課題
本課題は、これまでに核移植法 (無性生殖的方法)により作成したオルニチントランスカルバミラーゼ欠損症 (OTCD) モデルブタを有性生殖によって量産出来るシステムを構築することが、当面の目的であり、その生産システムを基盤として、OTCDブタを実際に用いたトランスレーショナルリサーチを遂行することが、最終的な目的である。今年度は、OTC 遺伝子KO の形質を有するキメラ個体の作出に取り組んだ。我々はこれまでに、致死の形質を有する遺伝子改変ブタを正常個体の細胞とのキメラ状態にすることで、正常発育可能な状態に導き得ることを確認している。OTC遺伝子の第2 exonに変異を持つブタ胎仔繊維芽細胞を受精卵核移植の核ドナー細胞とし、OTC-KOクローン胚(雄細胞由来)を作成した。同時に、正常な胎仔線維芽細胞を各ドナー細胞とした正常クローン胚(雌細胞由来)を作成した。OTC-KOクローン胚に正常クローン胚の割球を注入したキメラ胚盤胞を作製し(胚盤胞補完、Matsunari et al., 2013)、仮腹雌の子宮へ移植した結果、雄キメラ産仔を得た。OTCDキメラ産仔はOTCDの症状を一切示すことなく健康に成長した。キメラ個体の血液を採取し血算値と血液生化学値を調べた結果、全ての検査項目において正常範囲内であり、肝疾患がないことを確認した。 OTCキメラ個体を野生型メスと交配させ、妊娠を確認した。キメラ個体が繁殖能力を有することが示された。先天性代謝異常症は、小児科領域で非常に重要な課題であり、OTCDを発症するモデルブタの開発と、それを用いたトランスレーショナルリサーチから得られた知見は極めて大きな意義を持つ。希少難病の救済やオーファンドラッグの開発に、ヒトの病態を忠実に再現するモデルブタが大きな役割を果たすと考えられるので、本研究から将来の新たな展開が大いに期待される。
2: おおむね順調に進展している
昨年度、実施予定であった1. OTC遺伝子KOクローン胚と正常胚とのキメラブタの作出、2. キメラブタの正常性や成長の確認、3. キメラブタの生理学・生化学的データの収集 について遅滞なく取り組み、着実に研究成果を挙げた。X連鎖性遺伝病モデルブタの作出に関する共著論文 (Modeling lethal X-linked genetic disorders in pigs with ensured fertility. Proceedings of National Academy of Science USA, 115:708-713, 2018. )においても、習得した胚操作の知識と技術を生かして重要な役割を果たした。以上の理由より計画通りの順調な研究進捗と評価と判断した。
キメラ個体の性成熟後は交配に用いて後代産仔を作出する。F1産仔の雌はOTCヘテロKOのキャリア個体となるので、これらをキメラブタあるいは野生型雄との交配に供してF2世代を得る。F2世代においては、OTCDを発症する雄個体とヘテロKO雌個体(キャリア)が、メンデリズムに従って得られることになる。さらにキメラ雄から精子を採取し、それを用いた体外受精や顕微授精の条件検討を行う。以上を通じて、OTCD発症個体(雄)およびOTCヘテロKO雌(キャリア雌)を、量産出来るシステムを構築する。雄のOTCD個体を用いて、男児患者に用いられる栄養療法や薬物療法などの対処療法を施し症状改善に有効な処置を確定する。一方、肝細胞移植、人工肝組織(肝芽)などの、試験的移植に供する。OTCヘテロKOの雌個体については、女児におけるOTCD発症の機構解析に供する。OTCヘテロKO雌における、X染色体不活性化と病態発現の相関や、その他発症に関する因子の解明に取り組む。
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Proceedings of the National Academy of Sciences
巻: 115 ページ: 708~713
10.1073/pnas.1715940115