研究課題/領域番号 |
17J09719
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
名波 拓哉 東京大学, 工学系研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2017-04-26 – 2019-03-31
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キーワード | シリコン神経ネットワーク / ショウジョウバエ / ジョンストン器官 |
研究実績の概要 |
ショウジョウバエは、その神経系の構造の多くが明らかになっている、神経細胞数が比較的少ない、にもかかわらず求愛歌を用いたコミュニケーション等の知性を持つ、といった点からシリコン神経ネットワークで再現する対象として非常に魅力的である。ショウジョウバエの聴覚器であるジョンストン器官は、触角第二節に存在し、音、重力や風といった刺激を受容する。本年度は、ショウジョウバエの聴覚器の数理モデルの構築を行った。本モデルでは、生物学実験で観察された神経細胞の特徴的な反応を説明しうる、3つのイオンチャネルの組み合わせを提案した。本成果は、ジョンストン器官における情報処理の解明に貢献することが期待できる。 また並行して、神経系の挙動をデジタル演算回路上で効率的に実装するための技術の拡張を行った。具体的には、本研究室で開発してきた定性的神経細胞モデルのパラメータを、できるだけ少ない回路リソースで、神経細胞の多様な振る舞いを正確に再現するように自動的に決定する手法を構築した。本手法を用いて、Regular spiking 、Fast spiking、Low-threshold spiking、及びIntrinsically Burstingといった視床・皮質における4つの神経細胞クラスについて、Ionic conductance型モデルの応答を再現することができることを確かめた。また、Xilinx社のVivado Design suitを用いて field-programmable gate arrayを用いた回路実装のシミュレーションを行い、手作業によるパラメータ調整に比べて、必要な回路リソースが少なるという結果が得られた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ショウジョウバエの触覚に伝わる機械刺激は、ジョンストン器官を通して中枢神経系に送られるが、ジョンストン器官でどのような情報処理が行われているかは明らかになっていない。本成果は、ジョンストン器官における細胞外のイオン濃度の変化を利用した情報処理が、いくつかのイオンチャネルの組み合わせのもとで起こりうる可能性を示し、今後行われる予定である連携研究室による生物学実験と合わせて、ジョンストン器官における情報処理の一端を明らかにすることが期待できる。また、定性的神経細胞モデルのパラメータの自動化手法は、デジタルシリコン神経ネットワークの構築のための基盤技術であり、ショウジョウバエの神経系を含めて、様々な神経系のデジタル演算回路実装をより効率的に行うことを可能とする。
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今後の研究の推進方策 |
連携している研究室の生物学実験の成果を踏まえて、提案したモデルの改良を行うことで、ジョンストン器官の情報処理機構の解明に迫る。明らかにした情報処理機構を用いて、異なる種類の刺激を受容する神経模倣センサー情報処理システムの創出に向けた、シリコン神経ネットワークの設計を目指す。また、定性的神経細胞モデルのパラメータの自動化手法の発展として、Ionic conductance型モデルを介さず、実験データを直接再現できる手法の構築を行う。
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