本研究では、百日咳菌の宿主特異性を変化させる気管支敗血症菌のゲノム領域を決定し、その機能を解析することで、いままで明らかにされてこなかった病原細菌の宿主特異性決定機構を解明することを目的とした。 気管支敗血症菌の遺伝子の導入により百日咳菌の宿主域を拡大できるのではないかと考え、大腸菌人工染色体(BAC)とファージの組換え機構を組み合わせることで、新規のゲノム相補系「BPIシステム」を開発した。本システムを用いることで、最大約50 kbpの気管支敗血症菌の調査ゲノム断片を百日咳菌に挿入することが可能である。BPIシステムの有用性を検討するため、百日咳菌が進化の過程で欠失したO抗原に着目し、気管支敗血症菌でO抗原の生合成に関わるwbm遺伝子領域 (約32 kbp) を百日咳菌へと導入した。その結果得られたO抗原を発現する百日咳菌は、マウス下部気道においてコントロール株より有意に多く定着したことから、O抗原が気管支敗血症菌の広範な宿主特異性を規定する因子の一つである可能性が示唆された。以上のことから本システムは、ボルデテラ属菌の宿主特異性関連因子のスクリーニングにおいて有用なツールになり得ると考えている。
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