本研究はトルコ語とアゼルバイジャン語という系統的、類型的に近い言語のテンス・アスペクト体系の差異に関する研究である。昨年度に引き続き資料収集、母語話者との対面調査およびSNSを介した意見交換を行い、トルコ語とアゼルバイジャン語の文法記述を進めた。成果報告として2018年度中に国内学会2本、国際学会1本の口頭発表を行った。以下に概要を示す。 1.可能は本来主体の属性叙述であり、特定の出来事を表す事象叙述の形式とは矛盾を生じ構成的に解釈できない。これへの対応に言語ごと、可能形式ごとの色が出る。アゼルバイジャン語の状況可能-mAQ olarは過去形などと共起せず非文法的となる一方、トルコ語の可能-Abilは意味的な拡張が行われて不和が解消される:ほとんど全ての時制形式と共起することができ、時制形式に応じて様々な特有のニュアンスが生じる。見出しにおけるテンスの拡張も不和の解消を動機とする変化の一例である。 2.トルコ語のN-N複合語には、複合語標識を必要とするものとしないものがある。前者は修飾要素と被修飾要素と連想的関係に、後者は属性的関係にあるとされていた。しかしN-N複合語がNを修飾する入れ子の例を収集・分析すると、場所、時間、様態といった、これまで例外として処理されてきた意味関係をとる修飾要素がかなり生産的に使用されることが分かる。 またテュルク系言語に特有の複合語構造からいわゆる後置詞が発達する動機を考察した。ある語が後置詞となるには、名詞句を支配することと、文中で副詞的付加部として認可されることが必要である。前者は支配名詞に斜格をとらせるか、後置詞が複合語接辞をとるかの2通りの手法が認められ、反例はごく少数である。後者は後置詞に斜格をとる手法が一般的だが、主格のまま副詞的付加部となる場合があり、これに意味的傾向があること、また統語的に斜格の場合より強い語順制約が課される。
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