研究実績の概要 |
火星マントルがシャーゴッタイト隕石(火星玄武岩)を用いて詳細に研究される一方、火星地殻研究の多くが探査によって支えられる。しかし、リモートセンシング観測が中心の探査からは得られる科学データに限りがあるだけでなく、実験室とは異なる環境・条件での分析を強いられる為、その解釈は常に困難を伴う。火星および岩石型惑星のさらなる理解へ向け、火星隕石を用いた詳細な地殻研究は必要不可欠である。 ウラン(U)―鉛(Pb)同位体システマティクスは親/娘核種の不適合性が大きく異なり、二つの壊変系列(238U→206Pb, 235U→207Pb)を用いることができるため、地球地殻進化の研究に広く用いられてきた。火星隕石のU-Pb同位体システマティクスを用いて、火星地殻進化に新たな制約を与えることが本研究の目的である。 三つの火星隕石にU-Pb同位体システマティクスを適用し、火星地殻の同位体情報を獲得することに成功した。それぞれに年代解析を行った結果、いずれの火星地殻成分も45億年前から42億年前(Pre-Noachian時代)に形成されたものであることが分かった。この年代はクレーター密度により計測された火星表層の年代(平均35億年前に形成)より古く、地殻下部ではPre-Noachian時代に形成された地殻が支配的である可能性が高い。一方で、理論研究から下部地殻に支配的に存在すると予想された火星初生地殻(45億年以前に形成)は、本研究で分析された火星隕石からは検出されなかった。Pre-Noachian時代の惑星プロセス(マグマ活動やインパクト)により、火星は初生地殻の多くをその形成直後に消失してしまった可能性がある。本研究は、火星Pre-Noachian時代の地殻進化に初めて物質学的制約を与え、火星隕石のU-Pbシステマティクスがこの分野の研究において非常に有用であることを示した。
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