研究課題/領域番号 |
17J09785
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
齋藤 美保 京都大学, 理学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2017-04-26 – 2019-03-31
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キーワード | ミオンボ林 / アカシア林 / キリン / 子育て / 被食リスク |
研究実績の概要 |
申請者は、今までの研究からキリンにとって、1.ミオンボ林は、捕食者が狩場として好む水場から離れ、下草が多く草丈が高い環境であることから、子を隠す場所として適している、2.アカシア林は捕食者が狩場として好む水場周りに分布するが、ミオンボ林より栄養価の高い食物が得られるため、採食場として適している、と考えた。つまり、キリンは両方の植生を使い分けることで効率的に子育てを行っていると考えた。その仮説を検証するため、平成29年度5月から9月初旬、10月中旬から11月末までタンザニア・カタヴィ国立公園において現地調査を行った。約150時間にわたって子育て集団の追跡を行い、スキャンサンプリング法で10分毎に母子のいた場所を記録した。それらのデータから、大人メスは出産前には開けた環境を頻繁に利用していたが、出産後はほとんど利用しない一方で、ミオンボ林の利用頻度が高くなることがわかった。また、大人メスと同様に子も、他の環境に比べてミオンボ林を高頻度で利用していた。さらに、キリンの母親は捕食者が近くにいないなど安心できる状況で授乳を行う傾向がある。今回、授乳場面は61回観察されたが、その全てがミオンボ林で行われていた。これらの結果から、草原とミオンボ林が混在する環境においては、キリンにとってミオンボ林がより魅力的な子育て環境であることが明らかとなった。また、子育て集団だけでなく、大人で形成される集団をこちらも約150時間追跡し、生息環境と行動の関連を探った。結果、木がまばらに生えた草原では多くの時間を採食に費やし、被食リスクが高まると考えられる座位での休息はほとんど見られなかった。一方、座位での休息はミオンボ林で最も多く見られた。このことから、ミオンボ林は、子育て集団だけでなく大人のキリンにとっても、他の環境に比べて「安全な場所」と捉えられている可能性が明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成29年度の野外調査で得たデータをもとに、2017年4月から2018年3月までに国際シンポジウムでの口頭発表を二回、国内学会でのポスター発表を二回行った。また、現在短報を二本投稿中で、査読結果を待っている状況だ。加えて、原著論文を一本執筆しており、2018年5月末までの国際学術誌への投稿を目標としている。このように、平成29年度の野外調査で学会発表・論文発表をするにあたり十分量のデータを収集することが出来ており、その解析と成果発表も順調に進んでいる。 「おおむね」とした理由としては、昨年度調査で得られた母子集団のサンプル数が少なかった点が挙げられる。それが大きな理由で、原著論文ではなく短報で提出した内容がある。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究推進の大きな目標は論文執筆である。平成30年度中に現在投稿中の短報二本と、執筆中の原著論文一本、執筆予定の原著論文一本の計四本の論文を発表したい。そのために、2018年3月末までにおいてデータ解析が終了していない、キリンのソーシャルネットワークと近接距離の関係性についての分析を行う。それらの分析は7月までに終了する見込みである。その後、論文としてまとめ、8月中に投稿したい。論文執筆段階では受入指導教員と積極的にディスカッションを行い、論文をより良い内容に仕上げる予定である。 また、その成果を内外に広く公表するために、2018年7月にカナダで行われる国際学会、8月にアメリカで行われる動物行動学会大会で口頭発表をする予定である。国内においては9月の哺乳類学会大会、行動学会大会、2019年3月の動物園大学、生態学会大会でポスター発表あるいは口頭発表を行う予定である。そのような場において、様々な専門家の方々から頂戴するご意見を本研究の分析・方向性に柔軟に取り入れていきたい。
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