本研究計画では、自分がどのような性に属するかという性的アイデンティティー(性自認)をはじめとした、性的指向、性表現など複数の要素からなる心の性が、脳内でどのように表現されているかを解明することを目標とする。 脳の各部位における、特異的な機能を明らかにするためには、狭い標的部位の機能を局所的に失わせる技術が必要である。脳表面に紫外線が照射されると、釣り鐘型の損傷(UV損傷)が出来る。今年度は、この昨年開発した局所的脳損傷作製技術「紫外線脳損傷法」の応用に向け、紫外線照射により脳組織にどのような変化が生じ、どのような経過をたどって損傷ができるのかを明らかにするため、紫外線照射後の脳内の変化を経時的に解析した。 その結果、UV損傷では、神経細胞は紫外線照射直後に一度に脱落するのではなく、3~5日間かけて少しずつ減少していくこと、損傷部位におけるこれらのゆっくりとした細胞の脱落の多くは、プログラムされた細胞死の一種であるアポトーシスによるものであることを明らかにした。 また、性ステロイドホルモンが雄の社会行動制御に果たす役割についても解析を行った。雄マウスは同性集団内においてヒエラルキーを形成することが知られている。雄のエストロゲン受容体β(ERβ)遺伝子欠損マウスを用いて、個体間関係の形成過程を詳細に解析し、ERβ遺伝子欠損マウスでは、野生型マウスと同様のヒエラルキー形成が起こりにくいことを明らかにした。この結果は性ステロイドホルモン受容体の一種であるERβがオス同士のヒエラルキー形成に関与する可能性を示唆するものである。
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