今年度、私は、前例の乏しい、炭素-酸素二重結合(C=O)結合への分子間ラジカル付加による炭素-炭素(C1-C10)結合形成反応の開発研究に挑戦し、開発した反応を高度に官能基化された複雑天然物の合成研究へと展開した。従来のアルデヒドへの分子間ラジカル反応は、C=O結合への付加で生じるオキシルラジカルの不安定性さゆえ逆反応が優先し、効率性を欠く。私は、Et3Bがラジカル開始剤およびLewis酸双方としての性質を併せ持つことに着目し、本反応形式を実現した。すなわち、4-グルコサミン由来のα-アルコキシアシルテルリドと、マンノース由来の脂肪族アルデヒドの組み合わせに対して、空気雰囲気下、Et3Bを作用させると、オキシルラジカルがホウ素原子で捕捉され安定化されたホウ素アルコキシドを経て、10連続不斉中心を有する第2級アルコールを、高立体選択的に1工程で得た。この際、反応条件を種々詳細に検討することで、中程度の収率で付加体を得た。また、本化合物の全立体化学は、高酸化度天然物ヒキジマイシンのC1-C11の11連続炭素鎖主骨格と完全に一致する。加えて、私はLewis酸としてジエチルアルミニウムクロリドを添加することで、一般に脂肪族アルデヒドに比してカルボニル炭素の求電子性が低いとされる、芳香族アルデヒドへの分子間ラジカル付加反応をも実現し、受容体となるアルデヒドの適用範囲を拡大した。本成果は、生物活性天然物にとどまらず、機能性有機分子を含めた様々な分子の合成に適用できるため、精密有機合成化学を刷新する革新的な方法論となる。
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