二枚貝原鰓類における貝殻微細構造の進化史を明らかにすることを目的とした研究を前年度に引き続き実施した.本年度は新たに三畳紀の化石原鰓類について調査を行い,前年度のジュラ紀以降の結果やPaleobiology databaseの採録データを参照しつつ,得られたデータ全体を総括・分析した.その結果,中期ジュラ紀~前期白亜紀にNuculanidaeが微細構造組み合わせを真珠構造から均質構造へと進化させたこと,微細構造進化のタイミングの直後に当該分類群の産出頻度が上昇していることが改めて裏付けられた.また,現生原鰓類の貝殼中の有機物量を熱重量分析によって測定した.その結果,均質構造は真珠構造より有機物含有量が少なくから殻形成コストが小さいことが明らかとなった.以上の結果は,低コストな微細構造の獲得が原鰓類の適応放散に関係していた可能性を強く示唆するものである.一連の研究の進捗状況は概ね予定通りであり,現在国際誌への論文投稿の準備中である. また,このような過去の微細構造進化を分子生物学的側面から解釈する基礎的研究として,現生アコヤガイの貝殻タンパク質と貝殻微細構造形成との関係について研究に取り組んだ.貝殻の鉱物種や結晶形は貝殻に微量に含まれるタンパク質によって制御されているが,低温環境時のアコヤガイは真珠構造が作れずに均質構造に類似した異常殻を形成することがあると報告されている.リアルタイムPCR法によって貝殻タンパクの発現パターンと微細構造種を対比することで,異常殻形成に関与している可能性の高い貝殻タンパク質をリストアップすることに成功した.本成果はまだ分析途中ではあるが,微細構造の進化という現象について,今後古生物学的知見と分子生物学的解釈を結びつけてゆく上で極めて重要な基礎的知見であるといえる.
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