研究課題
イチゴ生産において、光合成産物のソース(葉)からシンク(果実)への転流は、収穫対象器官の肥大成長や物質集積を支配し、収量や品質に直接影響を及ぼす重要な生理機能である。高収益かつ安定したイチゴ生産の実現のためには、種々の環境作用に対する転流の応答を評価し、転流プロセスを適切に制御する環境調節技術を確立することが求められる。しかしながら、光合成産物の転流動態はそのメカニズムの複雑性のために、環境の変動に対する敏感な応答を定量的に評価した例は未だほとんど無い。そこで本研究では、放射性同位元素(RI)である11Cを利用し、転流動態を非破壊かつリアルタイムで可視化できるポジトロンイメージング技術に着目した。イメージング技術を用いて環境作用により変動する光合成産物の転流動態を時間・空間連続的に定量評価し、得られる情報に基づき栽培現場における転流動態を評価可能な動的転流モデルを構築することを目的とする。本年度は、イチゴ株における動的転流モデルの構成案を固めることを目的とし、ゲント大学(ベルギー)のLaboratory of Plant Ecologyへ渡航した。本研究室は植物体内の物質(水・炭素)輸送動態を評価可能な生体計測技術を有しており、得られた生体情報をパラメータとして利用した動的転流モデルを構築している。渡航期間中に研究室メンバーの様々実験に参加し、モデル構築に必要な生体情報を計測方法を習得した。また本研究室にてPETを用いた11C tracer実験も行い、光環境に応答するイチゴ株の転流動態を撮像した。得られた画像を解析することで、篩管流のみならず導管流にも関連した転流プロセスを示唆することができた。
2: おおむね順調に進展している
受入研究機関のサイクロトロンの改修工事が急遽決まったため、当初の予定であったRIイメージング実験が実施不可能となったが、ベルギー国ゲント大学へ研究を進める機会を求め渡航し、転流動態評価に関する研究を続けた。PETを用いた11Cトレーサー法により光環境に応答するイチゴ果実への転流動態の変化を評価し、また転流量の変化を計測できるSapflowセンサ群を活用し、動的転流モデルの構築に必須となる生体計測技術を確立した。C-11標識二酸化炭素とC-13標識二酸化炭素を用いた炭素栄養動態の解析について植物科学雑誌へ投稿し、学会等においても順調に研究成果を発表しており、 研究進捗はおおむね順調に進展していると考える。
環境作用(気温・湿度・二酸化炭素濃度等)によって変動する転流動態の微分的評価を行う。また今年度習得した生体計測法を用いて、生産現場におけるイチゴ株転流動態の積分的評価を行う。得られた微分的情報と積分的情報を統合し、生産現場における転流動態の評価を可能とする動的モデルの構築を検討する。
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Frontiers in Plant Science
巻: 9 ページ: 1-12
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Nuclear Inst. and Methods in Physics Research, A
巻: 印刷中 ページ: 印刷中
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Journal of the Faculty of Agriculture, Kyushu University
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