研究課題/領域番号 |
17J09903
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
山崎 悠司 京都大学, 工学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2017-04-26 – 2019-03-31
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キーワード | 酵素触媒糖転移反応 / 癌関連糖鎖抗原 / 5チオフコース誘導体 / 自己組織化分子集合体 |
研究実績の概要 |
癌細胞表面に発現する癌特異的糖鎖は癌関連糖鎖抗原 (TACA)を標的とする癌ワクチン研究が活発に行われている。このように癌細胞だけに発現するような抗原であるTACAを標的とするワクチンが開発できれば、TACA が発現する癌細胞の特異機能を阻害し、癌に対する高い治療効果を期待される。一方でTACAには2つの課題が存在する。1つは、効果が期待できる複雑なTACAを簡便に確保する点である。2つ目は、糖鎖は抗原性が低くTACA をワクチン化しても期待する免疫応答を惹起することが難しい点である。そこで本研究では、TACAの効率的合成法確立と高い抗原性を発現させるTACA分子設計開発という上述の課題を解決することを目的とする。 本年度では、TACAの効率的合成法確立については酵素であるケラタナーゼII(Kase II)の糖転移反応を利用して、硫酸化LeXと呼ばれるTACAユニットの配列を制御した糖鎖の合成を行った。特に、Kase IIの糖転移反応を利用することで生体内で様々なシグナル伝達に関係するシアル酸を糖鎖の非還元末端に導入した糖鎖及び、Kase IIの糖転移反応を繰り返し利用して複雑で多様な硫酸化TACAの合成を進めた。 また高抗原性を発現させる分子設計開発を目指し、5チオフコース誘導体(5S-Fuc)の合成を行った。本年度は、5S-Fucを導入したLewisYと知られる肺癌や乳がんに発現するTACAの合成に成功した。さらに、両親媒性ポリペプチドから調製されるナノ粒子の表面にTACAを提示して、抗体産生を評価した。この結果から、癌ワクチンキャリアとして最適な構造は50nm程度の平面シート構造であることが明らかになった。 今後は、この平面シート状のナノ粒子に5S-Fucを導入したLewisYを修飾して、天然にTACAに対する免疫応答の比較を行う。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、Kase IIの糖転移反応を利用し、生体内で様々なシグナル伝達に関係するシアル酸を糖鎖の非還元末端に導入した糖鎖を合成することが可能であることを見出した。また、このKase IIが触媒する糖転移反応を繰り返し利用することで、糖鎖長の長いTACAユニットを含む硫酸化糖鎖の合成を明らかにした。しかしながら、精製方法を確立することが今後の課題となっている。しかしながら本研究を進める中で、糖転移反応におけるKase IIの基質特異性を明らかにすることができた。 さらに、チオフコース誘導体(5S-Fuc)を合成するとともに、5S-Fucを導入したLewisY類縁体の合成に成功した。また、天然のLewiYをTACAとして担持した両親媒性ポリペプチドから調製される分子集合体キャリアをマウスに投与した。抗体産生量を評価した結果から、癌ワクチンに最適な分子集合体キャリアの構造を明らかにした。上述した結果は、研究計画に記載した通りの内容であるので、現在までの進捗状況は予定していたものであるといえる。
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今後の研究の推進方策 |
Kase IIの糖転移反応を利用して合成した硫酸化糖鎖を分子集合体キャリアへ展開し、TACA提示分子集合体を用いて抗原性を評価する。特に硫酸基、フコース残基が与えるTACAの抗原性の変化について明らかにすることを考えている。5チオフコース誘導体の合成後、申請者らが確立した手法を用いて、5チオ硫酸化LeX誘導体を合成する。続いて、末端アジド化リンカー含有5チオ硫酸化LeX誘導体、および5チオ硫酸化LeXオ キサゾリン誘導体の合成を行い、ケラタナーゼIIの糖転移反応を行って擬似TACAの合成を検討する。さらに、合成した5S-Fuc含有擬似TACAを用いて、擬似TACA提示分子集合体を調製し、透過型電子顕微鏡による分子集合体のモルフォロジーの確認、マウスへの投与を行い、癌ワクチンとしての評価を行う。癌ワクチンとしての評価はELISA法用い、購入する 抗体との結合強度を調査する。 一方で、Kase IIの糖転移反応を利用して合成した硫酸化糖鎖はケラタン硫酸と呼ばれる生理活性糖鎖に分類される。そのケラタン硫酸の生理活性相関を明らかにするために抗ケラタン硫酸抗体との結合親和性を調査することにより、分子レベルでのケラタン硫酸の生体内での役割を明らかにしたい。
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