本年度(平成30年4月から採用期間の終了する9月まで)において,当初の研究計画である「水素を還元剤とする不飽和化合物と芳香族求電子剤の還元的クロスカップリング反応」と,さらに挑戦的な課題として,「アルカンのC(sp3)-H結合の位置選択的クロスカップリング反応」の検討を中心に研究を進めた。
有機金属反応剤と炭素求電子剤のクロスカップリング反応は,有機分子の基本骨格を構築する上で信頼度の高い方法である。しかし一般的にクロスカップリング反応では有機金属反応剤の事前調製を含む多段階の操作が必要であり,反応後には化学量論量の金属反応剤に由来する金属塩の副生成を伴う問題がある。一方,系中で発生させた有機金属反応剤を用いるクロスカップリング反応は,入手容易な原料から短工程で炭素-炭素結合形成を行える。さらに本研究で取り組んだ「水素を還元剤とする不飽和化合物と芳香族求電子剤の還元的クロスカップリング反応」及び「アルカンのC(sp3)-H結合と炭素求電子剤とのクロスカップリング反応」はいずれも化学量論量の金属塩の複製を伴わない,理想的なクロスカップリング反応形式である。
本年度は,還元的クロスカップリングにおいてトランスメタル化を促進する触媒構造探索を行った。また「アルカンのC(sp3)-H結合の位置選択的クロスカップリング反応」を達成するために,位置選択的にアルキルラジカル中間体をアルカンから発生させることを目指して研究を行った。ベンゾフェノン類縁体などをC-H引き抜きを担当する触媒として,光照射のもと有機金属触媒との協働触媒系での反応条件を検討した。また目的反応の位置選択性を発現する上で,剛直な骨格を有しながら触媒活性点(カルボニル基)近傍に嵩高い置換基を導入した1,8-置換フルオレノン由来の触媒構造を候補として選定し,その前駆体である1,8-ジブロモフルオレノンの短工程合成検討を行った。
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