研究課題/領域番号 |
17J09908
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
角田 峻太郎 京都大学, 理学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2017-04-26 – 2020-03-31
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キーワード | 磁気多極子秩序 / 超伝導ギャップ構造 / FFLO超伝導 / 群論 / 非共型対称性 / 強相関電子系 |
研究実績の概要 |
本課題では、多極子秩序に誘起される新奇超伝導状態に関する普遍的な性質を探索することを目的としている。まずは特に、(多極子秩序と共存する状態を含む)あらゆる超伝導状態を対称性の観点から捉え直すことが重要と考え、群論による超伝導ギャップの分類学に注目した。近年、空間群を用いて厳密な分類を行うことで、これまで多く行われてきた点群の議論では見えてこなかった非自明なギャップ構造が現れる場合があることが明らかにされてきている。そこで本年度は、主として以下の3つの研究を行った。 (1)非共型Sr2IrO4における磁気多極子誘起エキゾチック超伝導の提案 (2)非共型対称性に保護された超伝導ラインノードの完全な分類 (3)Bloch状態の角運動量に依存する超伝導ポイントノードの発見 (1)に関しては、奇パリティ磁気四極子秩序と共存することでFFLO超伝導が磁場なしで起こるということ示した。一方、偶パリティ磁気八極子秩序と共存する超伝導においては、空間群の議論を用いることで、非共型対称性によって非自明な超伝導ラインノードが生じることが明らかになった。これらについては、4件の口頭発表、4件のポスター発表を行い、結果をまとめた論文はPhysical Review Letters誌で出版された。 上記の磁気八極子状態における非自明な超伝導ラインノードの存在を示したことが(2)の研究に進展した。そこでは、非共型対称性に保護された非自明な超伝導ラインノードが生じる条件を完全に明らかにした。また(3)においては、超伝導ポイントノード構造が超伝導対称性だけでなく電子の内部自由度に依存することを示した。(2)(3)については3件の口頭発表、2件のポスター発表を行い、結果をまとめた論文はPhysical Review B誌で出版されている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、空間群を用いた超伝導ギャップの厳密な分類学を身に付けたことで、Sr2IrO4という具体的な物質でのエキゾチック超伝導を提案することができた。その一方、物質を限定しない一般論として、あらゆる結晶対称性を精査することで超伝導ラインノードに関しては完全な分類を与え、ポイントノードに関しては非自明な例を見出した。これらの結果については複数の発表を行い、2本の論文を出版することができた。 得られた結果はいずれも、超伝導分野および多極子分野において実験・理論の両面から幅広く注目を集めるものである。また、結晶対称性に基づいた包括的な分類学は、今後の研究における物質探索の一つの指針を与えるものであり、大きな成果であったと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
まず、本年度に得られた「Bloch状態の角運動量に依存する超伝導ポイントノード」についての成果を発展させる。このような結晶対称性に保護されたノードには必ずトポロジカル的な保護も存在するという経験的知見から、このポイントノードのトポロジカル的な分類は何かということを調査する。分類が得られたなら、いくつかの簡単な例で具体的なトポロジカル数を特定してその計算を行う。 さらに、これまでの研究によって多極子秩序がエキゾチックな超伝導相(非自明ギャップやFFLO超伝導など)をもたらす場合があることが分かったので、そのような例を新たに探索していく。具体的には、多極子の揺らぎによって誘起される超伝導相の性質をいくつかの物質を取り上げて調査する。この課題については、第一原理計算などの新たな手法を身に付けつつ取り組んでいきたいと考えている。
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