研究課題/領域番号 |
17J09944
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
岩渕 望 東京大学, 農学生命科学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2017-04-26 – 2020-03-31
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キーワード | ファイトプラズマ / 葉化 / ファイロジェン / 立体構造 / αヘリックス |
研究実績の概要 |
植物病原細菌ファイトプラズマは感染植物に花が葉に変わる「葉化」や枝分かれが多数生じる「てんぐ巣」など、「植物のかたち」に変化を引き起こす特殊な病原体である。ファイトプラズマのもつ花葉化誘導ペプチドである「ファイロジェン」は花を葉へと変化させる葉化を引き起こす。本研究では、ファイトプラズマに対する新規防除戦略及び園芸品種創出への基盤構築のため、ファイロジェンによる花の葉化誘導メカニズムの解明を目指す。 葉化植物は正常な生殖器官を形成できず不稔となるため、形質転換体を用いた実験が困難である。本年度は、モデル植物であるシロイヌナズナと昨年度に作出したウイルスベクターを用いて、任意の遺伝子発現抑制法であるウイルス誘導ジーンサイレンシング法による葉化植物の稔性回復系の検討を行った。 それに加えて、ファイロジェンの結晶構造解析により立体構造を解明し、葉化誘導に必須な植物因子群との相互作用に重要なファイロジェンの構造学的特徴を明らかにした。植物は高度に複雑な遺伝子発現制御によって葉を変化させることで花を形成するが、その遺伝子発現の制御を司るのが、花成ホルモンとして有名な「フロリゲン」が合成する花形成因子の多量体化である。花形成因子は特定の組み合わせの多量体を形成することで転写因子として機能し、各花器官へと細胞を分化させる。これまでに、ファイロジェンは花形成因子に結合し、分解を誘導することで花の形成過程を阻害することが明らかになっていたが、葉化誘導に重要なファイロジェンの三次元構造は不明だった。そこで、X線結晶構造解析により、ファイロジェンの立体構造を解析したところ、花形成因子の多量体化に重要なドメインと類似した2つのαヘリックス構造からなることが判明した。各αヘリックスに変異を導入したところ、花形成因子に対する結合・分解活性が失われ、それに伴って植物への葉化誘導能も失われた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本成果は、ファイトプラズマの病原性因子の立体構造を解明した世界初の報告であり、植物病理学の基礎科学研究としてその学術的意義は極めて大きい。特に、フロリゲンが合成する花形成因子は植物間で保存されているため、ファイロジェンが本構造をもつことはファイトプラズマがあらゆる植物で花の葉化という普遍的な症状を引き起こすための構造学的特徴であると考えられる。ファイロジェンによる植物普遍的な葉化の仕組みの解明は、ファイロジェンの機能を阻害する新規化合物による葉化病の治療薬の開発や、病原体に感染させることなく付加価値の高い葉化品種や寿命の長い花卉品種の作出にも応用できる可能性を秘めており、育種学や園芸学にも影響を与える波及効果の高い成果である。本成果は国際学術誌に掲載されると同時に新聞報道(日本経済新聞, 2019年4月28日付)もされた。
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今後の研究の推進方策 |
ファイロジェンの発現により不稔となる植物の稔性回復系の検討を行い、系の最適化を行うとともに、解明したファイロジェンの立体構造情報をもとに葉化誘導機構について分子構造学的な解析を進める。
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備考 |
新聞報道:日本経済新聞, 2019年4月28日付 (朝刊), 「東大、葉化病の仕組み解明 花が葉に変わる植物の病気」
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