本研究は、嫌気性原生動物を都市下水処理UASB槽内に高濃度に保持することで、その機能を最大限に利用し、処理の安定化・高性能化を達成することを目的としている。本年度では、前年度までに分離培養に成功した嫌気性原生動物を用いて、1)基質となる細菌種の違いと2)共生するメタン生成古細菌の存在の有無が嫌気性原生動物の増殖に及ぼす影響を調査した。 1) 都市下水処理UASB槽から分離した嫌気性原生動物Cyclidium sp.、Cercomonas sp.、Trichomitus sp.を異なる7種の細菌を基質として培養実験を行い、それぞれの倍加時間を調査した。その結果、Cyclidium sp.の増殖速度は基質となる細菌種によって異なることが判明した。Cercomonas sp.とTrichomitus sp.は、増殖可能であった場合、増殖速度の差は確認されなかった。しかし、Trichomitus sp.の増殖には、基質の細菌種に関係なく、補助基質としてステロール類の添加が必要であった。 2) 分離培養に成功した三種のうち、Cyclidium sp.は細胞内にメタン生成古細菌を共生させており、宿主である嫌気性原生動物の代謝や増殖に関与していることが予想される。そこで、共生メタン生成古細菌の影響を調査するため、メタン生成阻害剤である2-ブロモエタンスルホン酸 (BES)を添加し、共生メタン生成古細菌の有無で原生動物の倍加時間を比較した。BESを添加した結果、Cyclidum sp.は共生する古細菌とメタン生成能を失い、さらに倍加時間が52時間から97時間となり、増殖速度も著しく低下することが判明した。よってメタン生成古細菌の存在は原生動物の増殖を促進する重要な因子であることが示唆された。
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