研究課題
ファイトプラズマは1000種以上の植物に感染し農業上深刻な被害をもたらす植物病原細菌であり、ヨコバイ類の昆虫によって媒介されて感染を拡大する。ファイトプラズマは細胞壁を持たない細菌であるため、宿主との相互作用にはファイトプラズマの菌体表面に存在する膜タンパク質が重要な役割を果たすと考えられている。本研究では、ファイトプラズマの膜タンパク質と結合する宿主レセプターの同定、および昆虫細胞の高精細リアルタイムバイオイメージングに基づいた、ファイトプラズマの媒介昆虫細胞侵入機構を明らかにすることを目的としている。本年度は、宿主因子をノックダウンした際にファイトプラズマの接着阻害が起きているかを調べる目的で、RNAi法および免疫電顕法による実験系の確立を進めるとともに、共焦点レーザー顕微鏡を用いてファイトプラズマの昆虫体内における局在を時系列で解析している。加えて、昨年度に次世代シーケンサーを用いて網羅的に決定したファイトプラズマの転写開始点をもとに、転写開始点上流における新規保存モチーフの探索を行った。その結果、ファイトプラズマの遺伝子発現制御に関わるシグマ因子が認識する既知のプロモーター配列とは異なる、保存性の高いモチーフが見出された。また、培養が困難なファイトプラズマに対する新たな抗生物質のスクリーニング系を確立し、ファイトプラズマに有効な薬剤を複数特定した。さらに、昨年度に国内のキャッサバから初めて検出したファイトプラズマについても、種の特定および分子遺伝学的解析を行った。
2: おおむね順調に進展している
本年度は、宿主昆虫因子をノックダウンした際にファイトプラズマの接着阻害が起きているかをRNAiおよび免疫電顕、リアルタイムPCRにより調べる予定であった。[研究実績の概要]の欄に述べた通り、現在RNAi法および免疫電顕法の実験系の確立を進めている。また、ファイトプラズマの蓄積量解析を目的とした、中腸におけるリアルタイムPCR系については既に確立済みである。さらに、本研究によりファイトプラズマの遺伝子発現制御系に関する知見が得られたが、ファイトプラズマは植物-昆虫間のホストスイッチングに伴い遺伝子発現を変動させていることから、この解析を進めることは昆虫宿主への適応に重要なファイトプラズマ遺伝子を特定する上で重要な知見が得られると予想される。以上から、一定の進捗があったと考えている。
今後は実験系の確立を進め、宿主昆虫因子ノックダウン時のファイトプラズマの挙動について、RNAi法および免疫電顕法、リアルタイムPCRにより解析を行う予定である。
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すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (3件) (うち国際学会 2件)
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