研究課題/領域番号 |
17J10012
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
金沢 じゅん 東京大学, 総合文化研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2017-04-26 – 2019-03-31
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キーワード | 語用論 / 日英対照 / 対照修辞学 / メタディスコース / 意見文 / 論説記事 |
研究実績の概要 |
該当年度の研究では,本研究に用いる理論の一つである「メタディスコース(metadiscourse)」に関する量的分析を進めた。修士論文の執筆の際に利用したデータをもとに,新たに「主成分分析」という統計的手法をもとに,新たに分析を行い,新聞の論説記事についての日英の対照分析を行った。分析の際には,先行研究において曖昧にされていた,Boosters, Attitude markers, Directivesについて,メタディスコースの定義を明確化し,サブカテゴリーを設けた。分析結果として,メタディスコースの出現率は,全体として英語より日本語の方が少ないが,新聞によっては日本語に固有のメタディスコースの出現傾向があることが明らかにされた。同時に,日本語固有の表現が各メタディスコースにどのように分類されるのかについてさらなる検討の必要性が示された。これは,メタディスコースの日英対象における先行研究では示されなかった分析結果である。これまで,質的な研究しかなされてこなかったメタディスコースの日英対照研究の領域において,記事ごとの文章量の差異や日本語と英語の新聞社ごとの傾向の差異などに関する統計的な様々な問題点を解消する手法として主成分分析による量的分析が行われるのは初めての試みであり,本研究結果は,当研究分野に新たな知見をもたらすと考える。イギリスにおいてこの研究結果をまとめたのもを学会で発表を行った。そして,そこで得られたフィードバックを加味して再分析した結果と考察をまとめたものを論文としてまとめている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究の分析に援用する理論は,「メタディスコース(metadiscourse)」「修辞構造理論(Rhetorical Structure Theory,以下RST)」「説得(persuasion)」と,大きく3つあるが,該当年度では,これらの理論に関する先行研究の把握や分析と考察を深めることができた。 まず,「メタディスコース(metadiscourse)」に関して,日英の新聞の論説記事について量的分析を行った。これまで,質的な研究しかなされてこなかったメタディスコースの日英対照研究の領域において,記事ごとの文章量の差異や日本語と英語の新聞社ごとの傾向の差異などに関する統計的な様々な問題点を解消する手法として主成分分析による量的分析が行われるのは初めての試みである。さらに,新たに新聞の投書文(1年分)のメタディスコース分析も進めている。 また,本年度では,RSTに関する英語の先行研究をまとめ,日本語の文章論における接続表現の先行研究をもとに,日本語のRSTにおけるrelationの定義および分類を試みた。 そして,本研究の「説得(persuasion)」の定義に関連して,社会心理学の分野の態度変容に関する領域で研究されてきた「説得(persuasion)」の先行研究についてまとめ,本研究の調査で使用する調査票の制作および実施に向けての準備を進めた。 しかし,該当年度では,新聞の投書文に関するメタディスコースとRSTの分析および,日本語母語話者への読解・インタビュー調査を終えることができなかった。というのも,RSTの日本語への援用に向けて,それぞれの日本語の接続表現におけるRSTのrelationに関する考察に時間を要したからである。
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今後の研究の推進方策 |
本研究の目的は,社会心理学の分野で研究されてきた「説得(persuasion)」の定義に基づき,日本語と英語の意見文における「説得力」の実在を言語学的に証明し,「説得」の流れの日英の差異を明らかにすることである。今後は,現在までに明らかにされた日英のメタディスコースの分析結果をもとに,日本語と英語の新聞の投書文(1年分)の「説得力」の流れの分析を行う。まず,それぞれの言語の母語話者に対して,説得力のある投書文と説得力のない投書文を選別してもらうスクリーニングテストを行う。投書文のテクストをそれぞれ「メタディスコース(metadiscourse)」と「修辞構造理論(Rhetorical Structure Theory)」の分析枠組みによって分析し,それらの分析結果を統合することによって,日英の意見文の説得の流れを数値化する。その結果を基に日英の意見文の類型を作り,それぞれの言語の母語話者に読解テスト実験やインタビュー調査によって「説得力」の実在を検証する。さらに,その相関を統計的に分析して「説得力」の日英の対照研究を行う。
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