研究課題/領域番号 |
17J10031
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
中尾 達郎 東京大学, 工学系研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2017-04-26 – 2019-03-31
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キーワード | 単一細胞分析 / 拡張ナノ空間 / ナノフルイディクス / マイクロ・ナノデバイス / 絶対定量 / 定容・分取 |
研究実績の概要 |
近年、がんや免疫疾患の研究において個々の細胞が放出する微量なタンパクを分析する単一細胞分析が求められているが、従来の分析ツール(μL:100万分の1L)では空間サイズが細胞体積(pL:1兆分の1L)と比べて桁違いに大きいため困難であった。一方、筆者の所属する研究室ではガラス基板上に作製した10-1000nmの拡張ナノ空間を分析に利用することでフェムトリットル(fL:1000兆分の1L)・単一分子という極限の分析を可能とする拡張ナノ流体デバイス工学を創始してきた。そして、細胞体積(pL)より3桁小さい拡張ナノ空間(fL)を利用すれば単一細胞が放出する微量タンパクの分析が可能であると構想してきたが、拡張ナノ空間で取り扱う分子数は計数領域になるため、従来の検量線を用いた濃度定量とは異なる新しい濃度定量の概念が必要となる。本研究では、分子数Nと体積Vから濃度C(=N/V)を求める濃度の絶対定量法を提案し、これにより単一細胞分析を実現することを目的とする。 本年度では、濃度の絶対定量法を実現する上で重要な課題であるfLの体積規定手法として、拡張ナノ空間で気液界面を操作して液体試料を定容・分取するfLメスピペット・fLフラスコを開発した。疎水性表面と流路形状により気液界面ラプラス圧を制御するラプラスバルブを組み込むことで、拡張ナノ空間での液体試料の切取と輸送を実現した。これにより、体積11 fLの定容・分取に世界ではじめて成功し、既存のメスピペット(μL)の10の8乗倍の微小化に成功した。また検証の過程で、定容した液体試料が流動する空気に晒されると数秒程度で蒸発・消失することがわかった。これは、試料体積がfLと極めて小さい拡張ナノ空間では、気体による流体制御において液体の蒸発が大きな問題として顕在化することを意味しており、fL液体のハンドリングに関する重要な知見を得た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的は、濃度の絶対定量法を開発し単一細胞分析へと応用することである。本年度は重要な課題である拡張ナノ空間における体積規定手法としてfLメスピペット・フラスコを開発した。気体による流体制御においてfLの液体試料が蒸発してしまうという問題に直面したが、気体の流体制御を動圧駆動から静圧駆動にすることで蒸発量を約1桁低減し、さらに、蒸発に要する時間よりも十分短い0.7秒で定容・分取の操作を完了するように駆動圧力の操作を設計することで、蒸発量を試料体積の1%以内に抑制することに成功した。試料の蒸発というfL液体のハンドリングに関する重要な知見を得て、かつ今後の実験に必須のツールを構築することができた。よって計画通りに進展している。
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今後の研究の推進方策 |
今後は濃度の絶対定量法の原理の検証と単一細胞分析への応用を目指す。本年度開発したfLメスピペット・フラスコを組み込んだ単一細胞分析デバイスを作製し、標準タンパク試料を用いて濃度の絶対定量法の原理を検証する。分子数が可算個領域であることに由来するサンプリング誤差や疎水表面への分子の吸着による誤差などの誤差要因が考えられるため、慎重に議論・検証を進める。
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