研究課題/領域番号 |
17J10044
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
八子 基樹 東京大学, 工学系研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2017-04-26 – 2019-03-31
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キーワード | シリコンフォトニクス / ゲルマニウム / 結晶成長 / 貫通転位 / 半導体レーザー |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、高速・大容量通信を可能にするとされるシリコンフォトニクス技術においてボトルネックとなっているレーザー光源を、Geを発光材料に用いて開拓することである。レーザー光源の材料はSi基板上に集積可能かつ高効率で発光する必要があり、Geがその両方を満足し得る材料として注目されている。Geを用いた高効率レーザー光源は理論上可能であることが知られているが、これまでに報告されてきたGeレーザーは動作エネルギーが理論値の100倍近いという、非常に効率の低いものであった。Geレーザーの効率の低さはGe中に欠陥が高密度に存在することに起因すると考えられており、欠陥密度の小さいGeを実現することが求められてきた。Ge中の欠陥密度を低減する方法としては熱処理や厚い緩衝層を用いる方法が提案されてきたが、それらはpn接合の劣化や光の閉じ込め効率悪化を誘発し、レーザー光源への応用には適さない。そこで昨年度は、レーザー光源への応用に適したGe中欠陥密度低減法を確立することを目的とした。 高温の熱処理や厚い緩衝層を用いないGe中欠陥密度低減法として、昨年度は「逆リブ構造」というSi基板とGe層の界面付近に空隙を持つ構造を用いる方法を提案し、理論モデルの構築と実証実験の実施により逆リブ構造の有用性を示した。逆リブ構造Ge中においては、主たる欠陥である貫通転位の密度が従来のGe(1平方センチメートルあたり10の8乗中盤~10の9乗程度)のおよそ10分の1となる、1平方センチメートルあたり4かける10の7乗を達成した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
Ge中の欠陥が発光効率の低下を引き起こしていることはよく知られてきたが、Ge中欠陥密度の低減によく用いられる熱処理や厚い緩衝層の採用はレーザー光源への応用には適さなかった。昨年度はレーザー光源への応用が可能な欠陥密度低減法として逆リブ構造のGeを用い、理論モデルを構築し実証実験で確かめることで、その有用性を示した。本来であれば直ちに素子開発を進めていく計画だったが、受入研究員の異動に伴い実験設備も移動し、立ち下げ・移動・立ち上げ・条件出しで一年のうち九ヶ月近く装置の利用ができない期間が発生した。このため新たな素子の作製や評価がほぼできない状況であったが、その中でも上記のように発光材料としてのGeの改善に向けた検討が進み、平成30年度前半の公表に向け準備中ではあるが試作において優良な発光特性の発現も見受けられ、全体としてはおおむね順調に推移していると評価できると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
引き続き逆リブ構造Geを用いた発光素子の作製・評価を進めていく。発光素子の駆動には、光エネルギー供給による光励起と電力供給による電気励起の2種類があり、まずはより測定の容易な光励起を、その後により実用的な電気励起を用いる。 加えて、ごく近年Ge層内部の欠陥のみならずGe層表面やSi-Ge界面の状態が発光特性に深く関わることを示唆する研究結果が報告されており、本研究の遂行中にもそれに準ずる結果が確認されている。これを逆リブ構造Geに応用することで発光効率の改善が見込まれ、さらなる構造や素子作製プロセスの最適化が可能になると考えている。
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