研究課題/領域番号 |
17J10099
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
荻原 直希 京都大学, 理学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2017-04-26 – 2019-03-31
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キーワード | 多孔性金属錯体 / 金属ナノ粒子 / 触媒 |
研究実績の概要 |
多孔性金属錯体(MOF)は金属イオンと有機配位子の自己集合により構築される多孔性材料であり、高い水分子吸着性を有することが知られる。MOFの特徴としては金属イオンと有機配位子の選択・配置の多様性による細孔環境の高い設計性が挙げられる。この設計性を生かして、MOFのナノ細孔のサイズ・化学環境を系統的に変化させることにより、水分子の吸着挙動、さらにはMOF細孔内部に吸着された水分子の性質を精密に制御することができる。そのため、MOF中の水分子の物性研究は盛んであり、MOF中の水分子はバルク状態では実現できない物理的・化学的性質を有することが知られている。しかし、この特殊な性質を持つMOF中の水分子自体の化学反応性に関する知見は未だ乏しい。そこで本研究ではMOF中の水分子の化学反応性を調べることを目的とした。この目的の実現のため、MOFと金属ナノ粒子を複合化するというアプローチを用いた。この複合体において、MOFは反応原料となる水分子を提供し、金属ナノ粒子は反応触媒としての役割を果たす。 金属ナノ粒子存在下でMOF前駆体を反応させることにより、金属ナノ粒子がMOFで被覆された複合体を合成した。得られた複合体の化学反応性を、水性ガスシフト反応をプローブとして調べたところ、複合体は既存の金属ナノ粒子触媒を凌駕する反応性を示した。このように、MOF中の水分子はバルク水より高い反応性を有することを見出した。さらに、MOFを構成する配位子を系統的に変化させて複合体を合成し反応活性を評価したところ、配位子の種類に依存した反応性を有することがわかった。これはMOF中の水分子がMOF配位子の種類の違いを認識し、その反応性を変化させたことを示唆している。このようにMOFが持つ高い設計性を生かし、細孔の化学環境を合理的にデザインすれば、水分子の化学反応性を系統的に制御可能であることを見出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初の計画ではMOFと金属ナノ粒子の複合化により、高活性触媒を開発するという応用化学的な目標を掲げていた。しかし、当該年度においては応用面での成果に加えて、基礎学問的に意義深いを知見を得ることに成功した。 具体的には(1)MOFに吸着された水分子はバルクの水とは異なる化学反応性を有すること、(2)MOFの高い設計性の活用によりMOF中の水分子の反応性を制御可能である、という2つの概念を世界に先駆けて確立することができた。これらの概念は水分子の新たな活性化手法を提案するものであり、将来的に「水系反応場としてのMOF」という新たな研究分野を開拓する可能性も秘めている。 以上のことから、当初の計画以上の結果が見込めると考え、計画以上に進展しているとした。
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今後の研究の推進方策 |
今年度までにMOF中の水分子はバルク水とは異なる化学反応性を有することを見出してきた。しかし、何故MOF中の水分子の反応性がバルク水と異なるかの理解には未だ至っていない。 そこで、次年度はMOF中の水分子の吸着状態と、その化学反応性の相関の解明を目指す。具体的には、in situ IR測定やNMR測定等の分光学的手法や、加熱発生ガス分析等の熱分析を駆使して、MOF中の水分子の吸着状態の理解を試みる。それにより、観測された化学反応性向上のメカニズムの解明を進めていく。 さらに、得られた知見を複合体合成にフィードバックすることにより、更なる化学反応性の向上や、反応活性の精密制御手法の確立を目指す。
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