研究課題/領域番号 |
17J10130
|
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
田中 庸介 東京大学, 大学院医学系研究科, 特別研究員(DC1)
|
研究期間 (年度) |
2017-04-26 – 2020-03-31
|
キーワード | 急性リンパ性白血病 |
研究実績の概要 |
本研究はDUX4融合遺伝子を有する白血病におけるDUX4融合遺伝子の機能の解明を目標としている。 昨年度からの研究では急性リンパ性白血病(ALL)におけるDUX4融合遺伝子の転写活性についてRNA-seq及びChIP-seqを用いた解析を行い、DUX4融合遺伝子は野生型と同様のDNA結合様式をとるにも関わらず、遺伝子発現誘導能は減弱していることを明らかにした。これらの結果は本年度中に英文雑誌に出版された。 ChIP-seqを用いたDUX4融合遺伝子による転写制御の測定を多様なヒストンマークをDUX4融合遺伝子を持つ白血病細胞株NALM6を用いて行い、他の白血病細胞株にDUX4融合遺伝子を強制発現させる系でも行った。DUX4融合遺伝子の結合部位では部分的に転写活性が増加する部位とそうでない部位があることが明らかになった。 NALM6を用いて、DUX4-IGHノックダウン前とノックダウン後のクロマチン状態をATAC-seqにより比較解析した。DUX4-IGH結合領域について検討すると、DUX4-IGHが結合する領域ではATACのピークはDUX4-IGHのノックダウンにより低下することがわかった。他の白血病細胞株にDUX4融合遺伝子を強制発現させる系ではその領域においてDUX4-IGH の存在によりATACのピークが増加することが示され、DUX4-IGHは結合領域においてクロマチンを開く作用があることが示唆された。 FLAGタグを付加したDUX4融合タンパクをNALM6細胞に強制発現させてFLAGタグで免疫沈降を行い、質量分析を行った。結果、エピジェネティック制御に関わるタンパクが複数候補として挙がり、実際にNALM6においても結合が認められた。これらのタンパクについて機能解析を進めている。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
まず、昨年度から継続しているDUX4融合遺伝子の転写活性についての論文が英文雑誌に本年度中に出版された。 その延長として本年度ではChIP-seqを用いたDUX4融合遺伝子による転写制御の測定を多様なヒストンマークをDUX4融合遺伝子を持つ白血病細胞株NALM6、及び他の白血病細胞株にDUX4融合遺伝子を強制発現させる系で行い、DUX4-IGHによる特徴的なクロマチン制御の可能性を見出した。 そこでDUX4-IGHノックダウン前とノックダウン後のクロマチン状態をATAC-seqにより比較解析を行い、DUX4-IGHによる特徴的なクロマチン制御パターンをデータ解析により確認している。 また、DUX4融合タンパクの免疫沈降からの質量分析を行うことでDUX4融合タンパクの結合タンパクを同定しており、その中には上記のクロマチン制御に影響を与えている可能性のある結合タンパクも含まれており、機能解析を進めている。 また、DUX4-IGH融合遺伝子陽性の患者検体を入手しNSGマウスに移植を行い、PDXマウスを樹立する作業を継続しており、現在2系統の樹立を確認している。今後さらに検体数を増やしていくとともに、これらのマウスを用いて上記の知見の確認を行っている。
|
今後の研究の推進方策 |
研究開始当初の計画ではDUX4融合遺伝子が限定的なターゲット遺伝子の転写を促進し、それらが白血化を促進していると予測していたが、DUX4融合遺伝子の転写活性について多様な系で検討を進めていく過程で、DUX4融合タンパクの存在下での、より大規模なクロマチン構造の変動が白血化の原因であることが示唆されている。ATAC-seq及び結合タンパク探索によってそのメカニズムの一因が示唆されており、今後それらのタンパクと白血化の関連について機能解析を進めて検証していく予定である。 PDXマウスに関しては、現在樹立したマウスの解析を進めるとともに、さらに患者検体収集を続けて、複数のマウスの樹立を目指し、上記の知見の確認を行う予定である。
|