研究課題/領域番号 |
17J10132
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
山岨 大智 京都大学, 生命科学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2017-04-26 – 2020-03-31
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キーワード | ウイルス / RNA |
研究実績の概要 |
本研究は新規RNA分解酵素KHNYNによるHIV-1感染抑制メカニズムを明らかにしようとするものである。これまでの研究から、KHNYNが強制発現においてRNase活性依存的にHIV-1のウイルス感染性を抑制することを明らかにしてきた。しかし、KHNYNによる抗HIV-1作用の分子メカニズムは全く明らかではない。そこで、本年度は、KHNYNの特異性の同定を試みることとした。昨年はKHNYNのRNA結合配列特異性を同定するために、RNA結合タンパク質の結合配列特異性を網羅的に同定する手法であるHITs-CLIPを行った。しかし完全なKHNYNの結合配列の同定には至らなかった。そこで、新たに、KHNYNがHIV-1ウイルスのいずれのタンパク質を標的とすることでHIV-1の感染性を抑制しているのかを明らかにすることとした。HIV-1はそのウイルスゲノムに9つのウイルスタンパク質をコードしている。HEK293T細胞においてKHNYN強制発現ベクターとHIV-1感染性クローンであるpNL4-3を同時強制発現し、48時間後にウイルスタンパク質発現量をウエスタンブロットによって調べた。その結果、gagやvif、nefなどのウイルスタンパク質の発現には影響しなかった。しかし、興味深いことに、Envタンパク質の発現が、KHNYNの強制発現によって著しく減少することが明らかとなった。そこで、Envを単独で発現するHIV-1 Env単独発現ベクターとKHNYNをHEK293T細胞に同時に導入し、48時間後にEnvタンパク質の発現をウエスタンブロットによって調べた。その結果、KHNYNの強制発現では、やはりEnvの発現が強く抑制されることが明らかとなった。EnvはHIV-1の感染に必須の遺伝子であり、KHNYNによってEnvの発現が抑制されることで、HIV-1の感染性が低下した可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまで、本研究ではKHNYNの強制発現によってHIV-1ウイルスの感染性が減弱することを明らかにしてきた。本年度は、さらにKHNYNが標的とするタンパク質がHIV-1のコードするEnvタンパク質であることを同定した。新規RNA分解酵素KHNYNが強制発現によってEnvタンパク質のみを特異的に抑制するという極めて重要な発見である。また、Envタンパク質はHIV-1感染に必須の遺伝子であり、この遺伝子の発現が抑制されることでHIV-1の感染性が減弱するという、KHNYNの抗ウイルス作用のメカニズムの一端を初めて明らかにすることができた。
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今後の研究の推進方策 |
KHNYNがEnvの発現を抑制することを明らかにした一方で、KHNYNがEnv mRNAのいずれの領域を標的とし、分解しているのかは明らかではない。そこで、今後、KHNYNがEnvタンパク質のどの領域を標的としているかを、種々の変異体や、他のHIV-1株を用いることで検討を加えていく。さらに、HIV-1のみならず、HIV-1以外のウイルスの感染も同様にKHNYNによって抑制される可能性が考えられる。そこで、インフルエンザウイルスをはじめとするウイルスに対するKHNYNの効果に関して検討する。また、KHNYNの発現増強によってHIV-1感染性の低下が見られることから、内在性KHNYN の発現増強法に関しても検討を加えていく。
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